裁判例から学ぶー割増賃金の支払い方・賃金規程の有効性について考える。
平成29年3月
今回は2月末に最高裁で行なわれた時間外労働の割増賃金の支払いに関する判断を取り上げたい。タクシー会社において割増賃金の支払いの方法を定めた給与の規程が有効なのか無効なのかが争われたもので、1審と2審ではこの給与の規程は無効とされていたが、最高裁は「当然に無効になるわけではない」として高裁に差し戻した。この判断には様々な意見があると思われますが、独自性の強いルールであっても就業規則でしっかり定めることの重要性を再確認する結果ともなったと感じていおります。
1.裁判の発端となったタクシー会社の賃金規程などうなっていたのか?
裁判は、タクシー会社のの規定に定められている『残業代相当の金額を歩合給から控除する』というものが有効なのか無効なのかというこに焦点があたった。ご存知の方も多いが、法定時間外労働や法定休日労働及び深夜時間労働に対しては割増賃金を計算して支払うことが労働基準法の37条に定められています。一方、歩合給というのは売上げ等に応じて支払う給料でこれについては特に法律上の定めはありません。タクシー会社等の運送事業を営む会社では運行距離や売上げの運賃に応じて歩合給が支払われることは決して珍しくありません。当該会社の給与の規程を正確に把握していませんが、時間外の割増賃金を計算して、その金額の相当額を歩合給から減らすというもののようであります。
2.判決と1審2審の判決はどのようなものだったのか?
1審と2進の判決は、こうした規程は『公序良俗に反する』として無効である。⇒「本来支払うべき割増賃金は支払っていないのではないですか?」とした。
その理由は、割増賃金を正確に計算していたとしても、その金額相当を歩合給から差し引くのだとすれば、歩合給から割増賃金に当たる金額が減額されるだけで、結局は総支給額が同じになってしまう。要は、時間外労働をしてもしなくても支給される給料が変わらないので、裁判所はこのことを、結局『割増賃金を支払っていない』として『公序良俗に反する』としたものと思われます。
3.最高裁の結論のポイントは何か?
次に、最高裁はこれに対しどのような考えであったのかを整理してみたい。最高裁は労働基準法の37条について、同法は割増賃金の算定方法を定めているのであって、その金額を支払っているかどうかが問題になるが、具体的な支払い方まで義務付けているものではない。従って、ポイントとなるのは以下の2点としている。
①通常の労働時間の賃金と支払わなければならない割増賃金の区別がちゃんとできているかどうか(支払われた給料のうち、いくらが割増賃金部分なのかがはっきりしていることが必要ということ)
②上記①を受けて、支払われたとされる割増賃金が労働基準法で定めているものを満たしているかどうか。
この2点をクリアしていて、割増賃金の具体的な支払い方法について、労使間で『歩合給から控除する』として合意されているのであれば、それを尊重するべきと考えていると思われます。
最高裁は具体的に、当該規程について、「それ自体は問題があるかもしれないが、『当然に公序良俗に反し、その規程は無効です』とまではいえない。賃金規程の有効性の問題ではなく、上記①と②を踏まえて、『然るべき割増賃金が正しく支払われているか』が問題で、その点を検証するべきだ」として高裁に差し戻した。
4.就業規則に定める重要性
今回のポイントは、就業規則の一部を成している給与の規程の有効性について『問題はあるかもしれないが、当然に無効とはいえない』として一定程度認めたと解釈でます。これは労使間で会社のルールを定めている場合は、そのルール、労使の自治性を尊重したともいえます。同社は結局のところ、2審の後にこの賃金規程を改定したと報道されているが、就業規則に定めたことが大変重要であったといえる。各会社で多少『独自性のある』ルールを定めたとしても、それを就業規則に適切に定めている場合は尊重されるべきである。就業規則の作成の重要性を再認識させられたといえる事案でした。
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