労働時間の上限規制について
平成29年3月
先日3月17日に「働き方改革実現会議」の第9回目の会合が開催された。ここで、今後の労働行政に大きな影響がある時間外労働の上限規制が協議され、一定の結論に至った。この結論に沿った法改正等が将来的になされると考えられます。今回はこの上限規制に注目し、現状の制度との違い、法制化された場合にどうなるのかについて検討したい。今回の上限規制を含めた詳細は首相官邸のHPからご覧いただくことができる。サイトはこちらから。
尚、当ブログを公開するまさに本日、平成29年3月28日に働き方改革実現会議の10回目の会合が開催され、これまでの内容を踏まえた実現へのロードマップが示された。これについては小職も改めて近日中にコメントしたい。
1.現在の時間外労働はどのような法律になっているのか
まずは現在の制度を確認します。筆者も過去のブログで書いているので詳しくはこれらを参照いただきたい。まずは筆者の法定労働時間に関するブログはこちら
現在の制度のポイントとして認識すべきは以下の3点といえます。
(1)労働基準法で1日8時間、週40時間が法定労働時間として定められている。これを超えて働かせることは一応違法とはなるが、労使間で協定すれば、その協定(36協定)の範囲内であれば時間外労働ができる。
(2)上記36協定では、法定労働時間を超えて働かせることができる時間(時間外の労働時間)を具体的に労使間で合意する必要がある。この合意する時間外労働の長さは厚生労働大臣が告示する「限度時間」までしなければならないとされている。36協定についてのブログはこちら
(3)36協定の上限時間とは別に「特別条項」と呼ばれる条項がある。この特別条項は文字通り「特別」な場合に36協定で合意した時間を超えて労働することが許される。ここでも「特別条項」を発動した場合に労働させることができる時間をあらかじめ労使間で合意しなければならない。特別条項についてのブログはこちら
2.現在の制度上の問題点
問題点は大きく2つです
A. 上記(2)の「限度時間」には強制力がありません。限度時間を超える時間外労働時間を労使間で合意しても、労基署の指導を受けたりする可能性はありますが、「罰則」はありません。
B. 特別条項で決めることができる時間外労働時間については、そもそも上限すらありません。極端に言えば1ヶ月100時間を超えるで合意しても「違法」ではありません。
これらの結果言えることは、労使間で協議して決めた時間外の労働時間についてはそれが何時間であっても、それ自体は違法ではないということです。違法となるのは「決めていた時間を超えて労働させた場合」のみで、決める時間そのものは何時間となっていても違法とはできないということです。
3.今回協議された時間外労働の上限について
発表された資料によれば、時間外労働時間の限度は1ヶ月45時間、1年間で360時間とのことで、これは現行制度での「限度時間」と一致している。また、現在の「特別条項」にあたる「特例」も認められている。この「特例」は年間で6回が上限で、単月では100時間まで、さらに2ヶ月~6ヶ月の平均がいずれも80時間を下回らなければならない等、上限時間が設けられている。
一見、似ているようにも見えるが、決定的な違いは、上限時間に罰則ができたということで、これがこの通り法制化された場合、使用者側は労働時間の管理を含めて充分注意が必要です。
4.「単月での100時間以内」はダメなのか?
ここからは小職の個人的な意見です。今回の上限時間の合意は画期的といえると思います。「働かせることができる時間を単月で最大100時間とすることでは重労働を容認することではないか」という声もあるが、小職はこの意見に賛同しない。確かに単月で考えた時に時間外の労働が100時間までできることは決して理想的ではないかもしれない。ただ、現状は100時間を大きく上回る時間でも制度上許されている。また、特別条項は「1年の半分以内」と定めているだけなので、例えば6ヶ月連続で特別条項を発動し、連続で100時間を超える時間外の労働をさせることが可能で、その場合でも現在の労働基準法上は違反とはならない。当然罰則もない。少なくても現状より大きな改善と考える。
今回提案されている「特例」では単月の100時間までは許されているが、同時に2ヶ月~6ヶ月の全ての時間外労働の平均が80時間以下でなければならないという決まりもある。これはどういうことを意味するのか。仮に特定の月に100時間の時間外労働をした場合、その前月の時間外労働は多くても60時間以内でなければ2ヶ月平均で80時間を超え、上限の時間を超え違法となるということになる。また3ヶ月平均でも4ヶ月の平均でも80時間以下としなければならないので、前月が60時間を大幅に下回らない限り、前々月も80時間程度しかできないということになる。また、100時間の労働をした翌月以降も同じ考えとなる。すなわち、1度でも100時間の時間外を行なうためにはその前後数ヶ月は80時間を下回る時間外労働でなければ違法となる。100時間の時間外労働が連続してできるというわけではないことを理解しなければならない。長時間労働を奨励する気は全くないが、これまでのように上限がなく、また罰則がない現状からすると大きな一歩といえると考える。
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