管理監督者性について考える①
平成29年5月
私にとってかねてより懸案のテーマであった『管理監督者』について取り上げたい。管理監督者性については従来より多くの議論がなされている。今年に入ってもお弁当販売チェーン店で相次いで管理監督者性にかかる訴訟が行われたということがニュースになっている。具体的には、お弁当販売チェーンの店長が管理監督者であるとしている使用者が店長に対し時間外労働にかかる割増賃金の支払いを行っていないとしてその店長が支払いを求める訴訟を行った。訴訟は複数の事案にわたっており、今年始めからそれぞれ異なる地方裁判所で争われた。
『管理監督者』についてはテーマが複雑なので、2回に分けて投稿します。今回は、『そもそも管理監督者とは何者なのか・どういう人が対象となるのか』について確認します。そして次回は『管理監督者を正しく定めるコツ、正しく定めない場合のリスク』について整理します。
1.管理監督者とはそもそも何ですか?
『管理監督者』については労働基準法41条に定められています。この41条は、『労働基準法の第3章に定めている「労働時間・休憩・休日」に関する規定は適用しませんよ』という、いわゆる適用除外者を定めている条文です。この41条の第2項に『監督若しくは管理の地位にあるもの』との記載があります。すなわち、この『監督若しくは管理の地位にある者』に該当すれば、労働基準法に定めている労働時間や休憩、休日の適用を受けない者となります。この『監督若しくは管理の地位にあるもの』が一般的に『管理監督者』と呼ばれております。
2.管理監督者になるとどうなるの?
この『管理監督者』に該当すれば、前述の通り、労働時間・休日・休憩の規定が適用されません。もう少し具体的に言うと、「1日8時間・1週40時間」の法定労働時間の適用を受けないので、それ以上の働いたとしても違法にはならず、割増賃金の支払いの義務もありません。また、極端な話しとしては、休日や休憩を与えなくても労働基準法違反とはならないことにもなります。
3.管理監督者性について
ポイントとなるのは、『管理監督者』って誰ですか?ということです。本来、『管理監督者』には該当しないはずの従業員を『管理監督者』です。といえば労働基準法の適用除外になるのであれば、できる限り多くの従業員を『管理監督者』にしてしまおう、という発想が会社側には芽生えます。この問題が表面化したのが2008年の日本マクドナルド事件です。お店の店長を『管理監督者』としたうえで、割増賃金の支払いをしなかったことが背景にあるのですが、店長が管理監督者に該当するのか否かが裁判での争点となりました。裁判では「店長」といっても、実際上は管理職の仕事をしていない「名ばかり」の店長であり、『管理監督者』ではないと判断され時間外の割増賃金等が支払われました。この時、この事件が元で『名ばかり管理職』という言葉が流行し、2008年の流行語大賞にもノミネートされました。
4. 現在の管理監督者の要件
日本マクドナルド事件は、この『管理監督者』の定義が明確になかったために起こった事件ともいえます。この事件以降、行政側からも『管理監督者』といえるにはどういう要件が必要かについてリーフレット等で解説しています。具体的な要件としては、以下のものが挙げられています。
・経営者と一体的な立場で仕事をしているかどうか
・勤務時間について厳格な制限を受けていないかどうか
・その地位にふさわしい待遇がなされているかどうか
これらの要件に当てはまるか等注意点については、次回投稿で詳しく解説します。
管理監督者はこれまでの説明の通り、労働基準法の一部適用を受けません。労働時間にも拘束されないために、時間外労働に対する賃金の支払いが必要ありません。問題となるのは管理監督者だと思っていた従業員が管理監督者でなかった場合に賃金の一部が未払いの状態となり、会社側には支払い義務が発生します。この支払いは従業員からの訴えのみならず、労働基準監督署から労働基準法違反として是正勧告を受け支払うように支持される場合もあります。
管理監督者は会社でいうところの管理職とは全く異なる概念です。この点の理解が不十分だと大きな支払い義務が発生するリスクがあるので充分な注意が必要です。
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