この秋、労働基準法はどう変わる?ー①そもそもの改正案とは
平成29年8月
先週、安倍政権と連合の間でかねてより懸案となっている改正労働基準法の高度プロフェッショナル制度について「一定の合意」が得られたとの報道がされた。 労働基準法の改正については平成27年の通常国会に提出されたものの、可決されることなく継続審議を続ける、いわゆる『たなざらし』の状態が現在も続いている。
一方で、そもそもの労働基準法改正案とは別に「働き方改革実現会議」による新たな改革による労働基準法の改正も議論されているところです。
7月の「事実上の合意」の後に連合ではこの合意に対して大いに紛糾しているとのことで、合意は白紙に戻されているという説もあります。ただ、一度は合意されたこの状況を受け、秋の臨時国会ではいよいよ改正に向けての議論が本格化すると見込まれる。
そこで、弊所ではこの労働基準法改正がどのようなものとなるのか、どのような議論がなされているのか。数回にわたり論点を整理したいと思います。
<第1回 平成27年国会提出案とはどんなもの??>
第1回の今回は、そもそも2年半前に国会に提出された労働基準法改正案がどのようなものだったかについてポイントを整理します。改正案が提出された当初は様々な話題を呼んだが、3年近く経過した現在筆者も含めてその内容は一部忘れられてきている。
この法案は平成27年通常国会に提出され、平成28年4月施行予定であったものでしたが、法制化に至らず、現在も継続審議となっている法案です。具体的な内容に関しては厚生労働省が改正案の概要をメモにしていますのでそちらもあわせて確認下さい。
概要のメモはこちら
厚労省メモの通り、主なポイントは7つありますが、ここではこの中から重要と思われる3点取り上げる。
① 高度プロフェッショナル制度
改正案の中で間違いなく「目玉」といえるポイントである。この項目は特に多くの議論がなされ、結果としてここ3回の通常国会のいずれでも可決に至らなかったのがこの特定高度専門業務・成果型労働制、いわゆる「高度プロフェッショナル制度」のためといってもよい。
この制度は専門的な知識を必要とする業務に就く者で一定以上の収入がある場合には、一般の労働者と同列に並べず、労働時間・休日・休憩といった労働基準法の適用除外としてもよいのではないかという発想を下にしている。この法案に対し連合をはじめとする労働者の立場を取る団体からは、「適用除外とした場合には、過重労働の温床となり、ひいては過労死のリスクが高まる」という声が多く、暗礁に乗り上げていた。具体的には、対象とする業務をどうするのか、「一定以上の収入」をどこで線引きするのかといった点での決着が見られませんでした。
しかしながら、今回連合との合意により、いよいよ前進することとなりました。
正式には秋の臨時国会以降で更なる議論が行なわれると思われますが、現時点では年収1075万円以上で金融ディーラー等の専門職とすることに加え、連合側の要望により年間一定日数の休日の確保(104日)や労働時間の上限は設定するなどが盛り込まれる見込みです。
② 中小企業の時間外割増賃金猶予措置の廃止
中小企業の事業主にとって、実はこれが直接的な影響が最も大きい改正ともいわれています。
法定労働時間を超えて労働させた場合(あくまでも36協定で合意している範囲内であることが前提ですが)、通常の賃金の25%割増賃金を支払わなければなりません。さらに、月の法定時間外労働の累計時間が60時間を超える場合には、その60時間を超える時間外労働に対しては25%割増ではなく50%割増を支払う必要があります。ただし、現在は中小企業に関してこの50%の割増はあくまでも『努力目標』とされ、25%割増でもよいとされています。これが『中小企業に対する猶予措置』です。
今回の改正案では、この中小企業に対する猶予措置を撤廃し、中小企業においても60時間を超える時間外労働については50%の割増賃金を支払わなければならなくなります。
なお、改正案が出された当初、全体としては28年4月を施行予定とし、この猶予措置の撤廃に関しては3年後の31年4月を施行予定としていましたので、今回成立した場合でも一定の猶予期間はあるものと想定されます。
③ 年次有給休暇取得の義務化
年次有給休暇については取得推進の観点から、従業員の意志に任せることなく、毎年一定日数(5日)は時季を指定して取得させることを使用者側に義務化するもの。義務化されれば、取得させなかった場合には法違反となり、当然労基署による是正の対象となる。
上記の②については施行までの猶予期間に時間外労働の削減努力が必要になる一方、①及び③については就業規則の変更や社内ルールの確立が必要になり、充分な検討が必要となる。
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