迫る無期転換 問われる対応策 空白期間延長策は有効なのか?
平成29年11月
無期転換ルールの本格がが来年春に迫ってきている。
無期転換ルールについての詳しい話はここでは避けますが、改正法の施行から5年を迎えるため、来年4月1日以降無期転換の請求が本格化することとなる。これに対して、使用者側は無期転換請求権を発生させないために様々な対応策を考えるものと予想される。今後は使用者による「無期転換予防策」に注目し、その是非や注目点を整理する。
今回取り上げるのが空白期間の延長戦略である。まずは、今月上旬にマスコミで取り上げられたニュースを確認したい。
<報道されたニュース>
複数の自動車メーカーが有期労働契約で働く期間従業員に対する雇用ルールを変更したと報道された。
報道によると、各メーカーともに有期労働契約で働く期間従業員については働ける最長の期間を定めていて、その期間に到達したら一旦退職。その上で、一定の期間の経過後再雇用する。これを繰り返し行なってきたという。
今回取り上げられた問題は、自動車メーカー各社が雇用ルールを変更し、これまでの数ヶ月であった「一定の期間」を労働契約法の無期転換ルール上クーリングされる6ヶ月以上とすることとしたというものである。自動車メーカー各社は一定の期間を延長することで、このクーリングを適用させるようにしたということになる。
<クーリングとは>
労働契約法18条2項に以下の通り定められている。労働契約がない一定期間のことを「空白期間」とする。その上で、この空白期間が6ヶ月以上あれば、空白期間以前の期間は通算契約期間に含めなくてよい。つまり、空白期間を6ヶ月もうければ、通算契約期間はゼロクリアされるということになる。これがクーリングである。
この対応策のポイントと今後の争点
この対応策の是非を論じるポイントは2つある。
① ルール変更自体のの違法性(就業規則等の不利益変更)
今回のケースは雇用契約を結ばない『一定期間』についてのルールを変更しているとされている。問題は、そもそもこの『一定期間』に関するルールはどのようなルールなのかということになる。
就業規則等にこの『一定期間』についての明記がある場合は、就業規則の不利益変更とされる可能性が高く、ルール変更は無効になるといえる。
一方で、こうしたルールを公式に作るのは不適切ともいえるので、実際には就業規則に定めず、『暗黙のルール』や『運用上のルール』としてどこにも明確に定めていない場合も考えられる。この場合は、ルールの存在も、また、そのルール変更も明確に確認できないので、ルール変更の違法性は問えないという結論となると考えられる。
② 運用上の問題はないのか
前述の通り、ルール変更自体の違法性が問えない場合が考えられる。これに対し、労働契約法19条の雇い止め問題として考えられるかどうかということになる。ただ、働ける最長期間のルールが明確に定められ、そのルールが遵守され、そして結果的に退職の一定期間後に再度雇用するという流れ自体だけでは、労契法19条違反とするのも難しいと考えられる。
③無期転換阻止(骨抜き)の問題をどう捉えるか
今回報道されている内容が、無期転換を阻止することを目的としていると判断された場合はどうなるか。
1つには司法の場での判断ということになるが、雇用ルールが規則に明記されている場合に変更自体の違法性(就業規則の不利益変更)を問える可能性があるが、それ以外では、現行法で下される判断は限られてりる。となると、実際にこのやり方が無期転換ルールの『抜け穴』となってしまう可能性が出てくる。問題はこうしたときに立法・行政としてどのように対応するのか。この点が注目されるといえる
施行後5年で法律を見直すとしているが、こうした『抜け穴』となりうる使用者側の対応策に今後は立法・行政側がどのような判断をするのか見守りたい。
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