行政の動向ウォッチ 裁量労働制に対する行政指導について
平成29年12月
今年も残すところが少ない26日に裁量労働制に関するニュースが立て続けに報じられた。いずれも行政による指導のニュースだった。NHKに対する指導自体は2週間ほど前のものだったらしいがこのタイミングで報道されたことで、どちらにしても来年本格化する『働き方改革』とりわけ過重労働の抑制に向けて動き出した感は否めない。
今回はこれらニュースのポイントと今後何に注意しなければならないのかに注目して解説したい。
<今回取り上げの2件の詳細>
① 野村不動産による企画業務型裁量労働制の不正適用
報道によると従業員600人に対して企画業務型裁量労働制の適用を行った結果、時間外労働の割増賃金を支払わなかったとされている。この600人の中には営業担当の従業員が多く含まれる等、本来は企画業務型裁量労働制の適用対象者ではないものが多くいたとのこと。このことにより制度を不正に利用したとして是正勧告が行われた。
② NHKによる専門業務型裁量労働制の不適切なみなし労働時間の設定
過労死した女性記者の事件は記憶に新しいところだが、この事件を受けてNHKでは本年4月に専門業務型裁量労働制を導入したとされている。今回は所轄の渋谷労基署から労使協定で定めた『みなし労働時間』について適切ではないとの判断がなされ、指導されたというもの。
<裁量労働制度とは>
業務を行なうのにあたって、始業・終業の時刻に従って働くのではなく、労働時間の配分を労働者本人に委ねた方が生産性の高い業務ができる場合があるとの考えから、何時間働こうが、実際に働く時間に関わらず、あらかじめ決めた『みなし労働時間』働いたとみなす制度です。詳しくは小職がかつて書いたブログをこちらから参照下さい。
<裁量労働制のポイント>
裁量労働制は結果として何時間働いても、あらかじめ決めた『みなし労働時間』働いたということにしかなりませんので、過重労働の温床になるとされています。このため誰でも適用できるということではなく、また、実際の仕事量に沿って『みなし労働時間』を定める必要があります。
・2種類の裁量労働制
裁量労働制は専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類あります。どちらの制度にしても裁量労働の対象とできる労働者を限定するためのもので、専門業務型裁量労働制は適用できる業務の種類が明確に定められています。今回のNHKのケースで言えば新聞記者が専門業務に該当するので適用自体は問題ないと考えられます。一方で、企画業務型については『企画業務』が抽象的になりやすいので幾つかのハードルが設けられています。今回の野村不動産の件で営業担当にまで企画業務型の裁量労働を適用させたことは問題といえるでしょう。
・みなし労働時間
労使間で合意する、『みなし労働時間』にも注意が必要です。合意する『みなし労働時間』が実際に業務遂行に必要な労働時間となっていなければなりません。つまり、日々の労働時間は労働者に委ねはするものの「平均すればこれくらいの時間必要ですよね」という時間を『みなし労働時間』としなければなりません。例えば、実際に業務を遂行するために毎日10時間を要する実態があるにもかかわらず、みなし労働時間を7時間や8時間とすることは問題です。NHKの場合はこの『みなし労働時間』が適正に設定されていなかった(実際に必要とする労働時間よりも短い時間を『みなし労働時間』としていたといえます。
<何を読み取るべきなのか>
裁量労働制についてはこれまではその手続きが問題とされたことはしばしば見られた。その一方で、適用している従業員が誰なのか?或いは合意している『みなし労働時間』が適正なのか?ということまで踏み込むことはあまり多くなかった印象がある。
今回、野村不動産の件を発表したことは労働極の強い意思を示したといえる。また、NHKの件では、『みなし労働時間』そのものまで踏み込んだこともあわせて考えると今後は裁量労働制のあり方が大きく問われることになるといえます。また、行政による裁量労働制に対する目がより厳しいものになることを示唆しているともいえます。
裁量労働制の適切な導入及び運用についてはお気軽に相談下さい。
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