無期転換ルールの「抜け道」は有効なのか?
平成30年1月
今年最初の話題は、無期転換ルールの「抜け道」として昨年話題になったテーマを取り上げる。このテーマは、昨年11月に複数の大手メディアで取り上げられたものであるが、大手自動車メーカーで有期労働契約で働く「期間従業員」に対する扱いを無期転換ルール上どのように捕らえるかという問題であった。
この問題に対して年末に厚生労働省が行った調査結果を発表しているので、この内容を検証したい。
<問題の経緯>
そもそもの発端は、昨年11月上旬に複数の大手メディアが取り上げた報道にある。その内容は概ね以下のようなものであった。
大手の自動車メーカーでは、雇用している期間従業員にと有期労働契約を結んでいるが、ほとんどの場合、その有期労働契約に契約更新の上限期間を設けている。大半のメーカーでは、その更新上限期間を3年以内としており、更新上限に達すると契約の更新は行わない。ただ、雇用契約が終了した場合でも、一定の期間を空けた後に再雇用するケースが多くみられているとしている。
これを『実状』とした上で、今回取り上げられた問題は、この再雇用までの「一定期間」(いわゆる『無契約期間』)についてである。
無期転換ルールでは、通算の契約期間が5年を超えた場合には、無期労働契約に転換する権利が従業員に発生するというものであるが、契約期間が無い期間6ヶ月以上あれば、契約期間が無い期間以前の契約期間は通算契約期間に含めないというルールになっている。
報道では自動車メーカーが、無期転換権を発生させないようにするために、『無契約期間』を6ヶ月以上となるように意図的に運用ルールを変更しているのではないかとされていた。
<厚生労働省の調査結果>
厚生労働大臣はこうした報道を受けて、昨年11月の時点で実態調査を行うとしていたが、今回その実態調査を公表した。
具体的な調査報告内容については厚生労働省がHPで公開しています。詳しくはこちらからご確認下さい。
調査は大手自動車メーカー10社に対して行われたが、10社中無契約期間を6ヶ月としている会社は7社(残る3社のうち、2社は6ヶ月以内でも再雇用するとし、再雇用はしていないと回答したのは1社のみ)。無契約期間を6ヶ月としている7社のうち1社は無期転換ルール創設前から『そもそも』無契約期間を6ヶ月として運用していたとのことだが、残る6社は無期転換ルールができたことで運用ルールを変えたと回答しているという。
<厚生労働省のコメント>
調査結果に対する厚生労働省のコメントであるが、結果を踏まえて、『現時点で直ちに法に照らして問題であると判断できる事例は確認されませんでしたが、雇止めや就業規則の変更の有効性については、最終的には司法において判断されます。』とした。またさらに、『各企業等において、例えば、労働者を長期に雇用することを前提としているにもかかわらず、無期転換ルールの適用を意図的に避ける目的でクーリング期間の前に雇止めをしている場合などは、個々の事案によって雇止めの有効性等が最終的に司法において判断されることになります。』
実際のコメントはこちらです
<考察>
この発表から何が読み取れるのか。
① こういうことをしても大丈夫なのか?
調査結果からも分かるとおり、無期転換ルールを踏まえて、無契約の期間を労働契約法で定めるクーリング期間とあわせて6ヶ月以上とするように運用ルールを変更していた自動車メーカが実際には多数あったというになる。恐らく常識的な感覚で言えば「無期転換ルールのそもそもの趣旨に反しているのではないか?」、「そんなことをしてよいのか?」という疑問は生じる。
② 「運用上のルール」だから問題ないのか?
ここでのポイントは、「運用上のルール」の変更である点といえる。就業規則や労働契約で契約更新の上限を定めている場合で、その更新上限を短くするといったことであれば不利益変更という問題に直面すると考えられる。また、別の角度でいえば、この運用ルールそのものは、雇用関係が終了している(元)従業員をどう採用するかという雇用の問題になる。従って、従業員ではないため、労働関係法令上の問題としては取り上げにくいということも言える。
結果として、再雇用までの期間をどうするかという『運用上の問題』については、『直ちに違法とはいえない』という結論しかなくなってしまうとも考えられる。
③ 結局は司法判断となる
最後にコメントでは「無期転換ルールの適用を意図的に避ける目的でクーリング期間の前に雇止めをしている場合など」という場合には「最終的には司法の判断」ということで締めている。
つまり、行政のとしてこうた対応の良し悪しは判断できない。だから『直ちに違法ではない』という表現になってしまっているが、①で抱いた疑問の通り、意図的に無期転換を避けようとした場合は違法となる場合があるので、注意が必要です。というもの。運用には充分の注意が必要である。
無期転換ルールへの対応はお気軽に弊所までお尋ね下さい。
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