裁判例から学ぶー休職制度の適用。精神疾患の業務起因性について
平成30年2月
今回は、休職期間満了にともなう退職扱いの有効性について今週の地裁判決事案を取り上げる。
精神疾患による私傷病休職のケースは、昨今決して珍しくない。そうした従業員に対してどのような点に注意すべきなのかを考えたい。
<事案の詳細>
・背景
歯科医院に勤務していた女性歯科技工士が2015年3月にうつ病にり患したことが原因で休職。その後、就業規則に則って10月に退職扱いとする通知を受けた。
当該女性職員は産休取得後2014年から1年間の育児休業を取得し、2015年1月に職場復帰する。しかし、復帰まもなく第2子の妊娠を告げた。1年の育児休業を取得したことや、第2子の妊娠に対して、複数の職場の上司から嫌がらせや心無い発言がなされたとして、そうした上司からの言動が原因でうつ病をり患したとして、損害賠償金の請求と職員としての地位確認を訴えていた裁判である。
・判決
今回の地裁判決では、上司らの行為が原因でうつ病を発症し、業務起因性が認められるとしたという。要するに業務災害と位置づけたこととなる。結果として、従業員としての地位を認めた上で、損害賠償金を含めて総額500万円の支払いを命じた。
<休職制度とは>
ここでまずは休業制度について確認したい。
多くの事業所で休職制度を設けていると思われるが、一般的に休職制度では休職の期間を定めて、その休職期間中に職場復帰が出来ない場合には退職とする扱いとしている。本件もそうしたルールだったと推察される。注意すべきは、こうした休職制度はあくまでも私傷病に対する制度である点で、精神疾患が業務災害によるものであった場合には話が全く変わってきてしまう点が重要です。
つまり、私傷病休職の場合は、
私傷病で就労できない⇒休職期間を与え就労できるように一旦は療養してもらう⇒それでも働けない場合は退職とする。という流れになります。しかしながら、そもそも傷病発症の原因が業務によるものである場合はこの流れは適用できないことになります。
<今回事案から学ぶべきこと>
精神疾患による私傷病休職については、その要因に注意が必要である点特に意識しなければならない。何が原因かはっきりしてしやすい「ケガ」と違って「病気」の場合は原因を一つに特定できない場合がある。とりわけ精神疾患の場合は、その原因の特定がより難しく、業務に関連したことが要因となる場合も珍しくはない。このため、発症時には私傷病と思っていたものが、後に業務災害と判断される場合があることを意識しなければならない。従って、精神疾患を発症した従業員がいる場合には、まず、業務に関連した要因があるか疑ってかかるべきであろう。
<使用者が何に気をつけなければならないのか>
大きく2つのことに注意が必要と考える。
1.業務関連の要因調査
精神疾患の要因は様々考えられる。興味のある方は、厚生労働省の精神疾患の労災認定基準を確認することを勧めたい。最初に疑ってかかるべきは過重労働及びハラスメントやいじめなどの職場環境といえる。まずは直近の勤務実績を確認すべきでしょう。労働時間管理が適切に行なわれていればすぐ確認できるはずです。その上で、職場環境のヒアリングを実施することをお勧めします。
2.休職の手続きを慎重かつ丁寧に行なう
もう一つ注意すべきは、休職から退職に至る手続きを丁寧に行なうということである。『就業規則で決めているから』という理由で安易に退職手続きを行なうと必要以上に従業員とのトラブルの原因となる。上記の要因調査を行なった上で、休職を開始する時・休職中・休職期間満了時の対応をしっかり行なうべきでしょう。特に業務に関連する可能性がある場合には特に慎重かつ丁寧に行なうべきである。
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