事業場外労働のみなし労働時間制について考える
平成30年4月
先月末、飲料自動販売機の大手運営会社が労働基準監督署の是正勧告を受けたことが報道された。労働時間については平成28年の大手広告代理店の事件以降特に注目が集まり、行政側も取締りを強化する方針である。
折りしも国会では裁量労働制の問題が取り上げられている中での是正勧告のニュースである。
そこで、今回報道された自動販売機事業会社が指摘を受けた問題の内容を検証すると共に、議論を呼んでいる裁量労働制とあわせて労働基準法における労働時間の考え方を整理したい。
事案詳細
報道によれば、自動販売機の事業会社が従業員に対して事業場外みなし労働時間制の適用をしていたとのことで、今回はこの適用が否定されたというもの。よく街中で見かける光景であるが、当該会社は自動販売機に飲料等の補充を行う業務をしている。そして、実際に補充する社員を『ルートセールス社員と』と呼んでいるとのことである。
このルートセールス社員に対して事業場外みなし労働時間制を適用していたが、この事業場外労働時間制の適用が無効であったと是正勧告を受けたと報道されている。この事業場外みなし労働時間制については詳しく後述するが、結局は、実際に何時間働いても『みなし労働時間』働いたものとする制度である。通常は、この『みなし労働時間』が所定労働時間働いたとすることになるが、当該会社でも実際に働いた時間にかかわらず、所定労働時間の7時間45分としていたと考えられる。
当該会社は、今回の是正勧告を受けて、本年1月より、みなし労働時間制度の適用を廃止し、遡っての時間外手当を支払うこととなった。
法律はどうなっているのか
労働基準法ではそもそも32条において、『法定労働時間』の概念を定めている。皆さん、よくご存知の週40時間・1日8時間がそれである。同じ32条の中で、32条の2~32条の4ではフレックスタイム制を含めた変形労働時間制についての定めをしているが、どのルールにおいても基本的には実際に働いた時間を労働時間として管理・把握しなければならないことに変わりはない。
この大原則に対して、38条では例外的な労働時間の考え方(計算の仕方)を示している。原則と違い、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ定めた一定の時間を労働時間とするルールが、この事業場外労働のみなし労働時間制と昨今話題になっている裁量労働制である。実際の条文では、38条の2が事業場外労働のみなし労働時間制、38条の3が専門業務型裁量労働制、38条の4が企画業務型裁量労働制の定めとなっている。原則的には、事業場外労働のみなし労働時間制度では『所定労働時間』働いたものとみなし、裁量労働制では、使用者と労働者で合意された『みなし労働時間』働いたものとみなすという制度である。
事業場外みなし労働時間制度 労働基準法38条の2
以下がまず条文そのものである。
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
事業場外みなしのポイント
条文で確認できる通り、「事業場外」で働いていれば無条件で適用となるわけではない。最も重要なのは労働時間を算定し難いときは適用できるという点である。厚生労働省の通達にもあるが、携帯電話を持たされるなど、常に連絡ができる状態で仕事をする場合は、一般的に『労働時間を算定し難い』とは言えないと解釈されます。
この点については、行政からリーフレット等が出されているので是非参考にされたい。参考までに東京労働局のリーフレットはこちらからご覧下さい。
もう一つ重要なのは、仮に、事業場外の適用がなされても、通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合は通常必要とされる時間労働したものとみなすという点である。
報道によれば、今回の事案は、そもそも事業場外労働のみなし労働時間制適用が労働基準監督署によって否定されたとされている。仮に、要件が満たされて、みなし労働時間制度の適用が認めらたとしても、実際の労働時間が、報じられている通りの12時間や13時間要するものだったとすれば、『通常必要とされる時間が』12時間の仕事を与えていることになり、みなし労働時間も所定の7時間45分ではなく12時間とすべきという指導はされたであろう。
事業主は何に注意しなければならないのか
最後に、この事業場外労働のみないし労働時間性の適用を受けるにあたって、今回の事案から何を学ぶべきかを以下3点に整理したい。事業主の中には『ほとんどの時間を事業場外で仕事しているから、このみなし制度の適用が当然に受けられる』と勘違いしている方もいる。また、「みなし制度の適用を受けたら、所定労働時間の賃金しか支払わなくて良い」と考えている方も多い。これらの考えには注意が必要である。
① そもそも事業場外みなしの適用を受けることができるのか
先ほど紹介のリーフレットをよく読んでいただくことが最初のポイント。この適用は、本来厳格なルールがある。実際に適用が受けられるのかどうかについては、よく調べることをお勧めしたい。昨今の風潮で、労働時間に関する取締りが強化されれば、今回同様の対応がなされるリスクがあるので充分に注意されたい。
② 『通常必要とされる時間』
今回のように、7時間45分の所定労働時間に対して、実際には12時間~13時間必要(「通常必要時間」)とする仕事を与えている場合、当然ですが、所定労働時間の賃金だけ払えばよいということではなく、『通常必要時間』の賃金の支払いが必要になります。さらに、通常必要時間が法定労働時間を超えることになるので、本来は労使間の協定が必要になります。
③ 適用が否定されたらどうなる?
上記2点をしっかり確認することが重要です。事業場外みなしの適用が受けられるのか、与えている仕事の通常必要時間は所定労働時間に対してどうなのかということを常に確認するようにする必要があります。結果として否定される場合は、当然未払い賃金が発生する恐れが出ます。充分に注意が必要です。
みなし労働時間制度のお問い合わせは宍倉社会保険労務士事務所までお気軽にどうぞ
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