法改正情報ー働き方改革関連法案にどう備えるか
平成30年7月
先月29日についに『働き方改革関連法案』が参議院で可決し、成立しました。この『働き方改革関連法案』(以下、この書き込みでは『関連法案』と呼ぶこととします)が可決したことが具体的に何を意味するのか、そしてより重要なこととして、具体的に何をいつまでにしなければならないのかについて解説したい。
働き方改革と関連法
これまでもこのHPでも何度か取り上げてまいりましたが、政府が押し進める働き方改革と関連法案とはある意味別物と考えてよいといえます。今回可決された関連法案は働き方改革の実効性を高める為に必要な法改正を行うものということができます。その意味では、働き方改革の『一部』を構成しているといえます。つまり、『働き方改革』全体のごく一部分が今回の法改正によって進むこととなったということが重要な事実です。『働き方改革』の全体像については小職の書き込みをここから参照下さい。
今回の関連法案により大きく以下の2点が、皆様の『働き方』を変えることとなります。
① 過重労働防止へ実効性のある改正と同時により柔軟な働き方ができるように労働基準法を改正。
厳格にするところは厳格にする一方、一定の『自由度』も与える形にする。
② 同一労働同一賃金を具体的な形で導入する為の法整備。
非正規労働者がより活躍できるように雇用形態などにより非正規労働者が不利にならないように法律を整備し、ガイドラインを作る。
今回の書き込みでは、施行時期が来年4月と迫っている①の労働基準法の改正にまずは焦点を当て、使用者が具体的に何をしなければならないのかについて簡単に解説します。(同一労働同一賃金については別途解説します)
使用者側がやらなければならないこと
労働基準は強行法規です。つまり、労働者と使用者の間で労働条件について合意していたとしても、その合意事項に関わらず、守らなければならない基準を示しているものです。この労働基準法の改正により、使用者には新たに『やらなければならない』ことができることとなります。ここでは、その『やらなければならないこと』を簡単に整理します。
時間外労働の上限規制
今回の労働基準法改正の目玉といえる改正です。
法定労働時間を超える労働、いわゆる法定時間外労働については労働基準法36条に定める労使協定を締結することで、一定の範囲で認められているが、この36条自体に具体的な定めがなく、大臣告示(限度基準)により多くの具体的な定めがなされている事実があります。一方で、その大臣告示にも、実質的に上限がないことや罰則規定がないことが問題であると長年と指摘され、実態としては長時間の時間外労働が可能であったといえます。今回の法改正はその問題点を改善するためのものでした。
詳細については、別途記載していますので、ご覧になりたい方はこちらから参照して頂きたいが、改正法が施行された後には一定の職種(適用除外の対象職種)を除き、最大でも月間100時間までの時間外労働しかできなくなり、違反をした場合には罰則が適用される点に注意が必要です。
施行時期については、平成31年(来年)4月1日と、1年を切っている状況であり、対応が急がれます。(ただし、中小企業については1年の猶予があり、平成32年4月1日施行となります)。
また、31年4月からこの新しいルールが適用されるので、36協定の締結の期間が4月~翌年3月ではない会社においては充分な注意が必要です。例えば、毎年10月に、10月~翌年9月の1年間について協定をしている会社の場合、本年10月に締結する36協定から改正後のルールを意識した協定を締結する必要があります。
年次有給休暇制度の見直し
年次有給休暇については労働者の権利ですので、本来は「使用者側が時季を指定して労働者に年次有給休暇を取得させる」ことは労使間で合意する『計画的な付与』等の特別な場合を除き、原則として許されていません。ただ、その結果としてわが国の年次有給休暇の取得率は平均して50%水準で推移しています。政府はこの取得率を70%程度まで引き上げることを目指しております。例えば、年間で年次有給休暇を1日も取得しない労働者が1割以上いるとされていますが、こうした年次有給休暇の取得が少ない労働者にも年次有給休暇を取得させる為、労働者が一定日数の取得をさせるように使用者側に義務付ける法改正を今回行ないました。
具体的には、年間10日以上の年次有給休暇が付与される労働者については年間で5日以上は実際に休暇を取得させなければならない義務が使用者に発生することになります。年次有給休暇については、上記の通り、本来的には『労働者の権利』であるため、使用者が労働者に『取らせる』という概念はありません。当然のことですが、就業規則の改正を行うなど、一定の場合に使用者に時季を指定して取らせるルール変更が必要になります。
使用者として注意しなければならないのが、「休暇取得の少ない労働者には使用者が時季を指定して休暇取得をさせることができる」ということを就業規則等に明記しなければ、今回の法改正で求められている『使用者の義務』を果たす方法はないということになります。
この改正は全ての企業が対象となり、平成31年4月1日施行となりますので、就業規則の変更等の対応が急務です。
割増賃金制度の適用猶予廃止
現在の法律上は月間の法定時間外労働が60時間を超えた場合、60時間を超える時間に対する割増賃金は25%ではなく、50%の割増賃金を支払うことが義務付けられています。ただし、このルールには中小企業を対象として適用猶予措置が取られており、中小企業に限って60時間を超えても25%の割増賃金を支払えば違法とはなりません。今回の労基法改正で中小企業も50%の割増賃金を支払わなければならなくなります。この適用猶予の廃止措置については平成35年4月1日施行となっていますので、それまでは引き続き25%でも問題ありません。ただし、『5年先だから大丈夫』とすると気づけばアッという間に5年が経過します。25%割増から50%割増と賃金支払が増えることになりますので、直接の影響は非常に大きいといえます。
使用者がこれからできること(選択できること)
労働基準法の改正により、新たに高度プロフェッショナル制度が導入されることとなります。高度プロフェッショナル制度については、これから行政で決められることも多く、現時点では不確定な部分も多いことから今後改めて解説します。一方で、現在も導入されているフレックスタイム制についてその運用ルールが緩和され、労働者が寄り『フレキシブル』な働き方ができるようになりました。
フレックスタイム制度の清算期間の拡大
現在のフレックスタイム制度の清算期間は最長で1箇月となっています。フレックスタイム制度は労働者に始業・終業の時間をゆだねる関係で、一日の労働時間を使用者側が決めることはできません。労働者が望めば、法定労働時間の1日8時間を超えて労働者が働くことができることになります。ただし、こうしたフレックスタイム制度で働く労働者に対しても一定の労働時間を守ってもらうために、『清算期間』という一定期間を定めて、それぞれの清算期間中の労働時間(平均して法定労働時間を守る必要はあります)を労使間で決めなければなりません。
この清算期間上限が1箇月であることによって、労働者の自由度はある程度あるものの、一定の限界があります。
今回の改正では、この清算期間を最長3箇月とすることができるようになりました。一定の運用上の制限や監督署への届出が必要になるのですが、仮に清算期間を3箇月とした場合には、その3箇月を均して法定労働時間を守ればよいことになりますので、言ってみれば、月によって『頑張る月』と『そうでない月』を使い分けることができ、労働者の自由度が増すといえます。
今回の法改正により、会社のルールや運用を変更する必要が出てまいります。お困りのことがあればお気軽に相談下さい。
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