改正された労働基準法施行規則を読む
平成30年9月
本年6月に成立した働き方改革関連法、この施行に向けた細かい調整の動きが活発になっている。今月7日には『働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令』が公布された。また同時に『省令』バージョンも公布された。
公布された厚生労働省関係省令の整備に関する省令では労働基準法の施行規則の改正が発表された。幾つか重要な改正点があるので今回はこれを取り上げたい。
労働基準法施行規則の改正
今回の施行規則の改正は主に、労働基準法の改正に伴う実務面に対応する為の改正といえる。ただ、中には今回の法改正と直接関係しない点での改正も行われており、むしろ注意を要するのは、こうした直接の関係がない改正といえる。主な改正項目を列挙すると以下の通りである。
今回の労基法改正に伴う改正項目
施行規則 12条 フレックスタイム制度で清算期間が1箇月を超える場合の届出様式等
施行規則 16条及び17条 『新』36協定について届出様式と記載項目等について
施行規則 24条及び25条 年次有給休暇の時季指定義務について
今回の法改正に直接関係のない改正項目
施行規則5条 労働条件の明示について
施行規則6条の2 過半数代表者について
全体感
今回の労基法の改正により、フレックスタイム制度の清算期間の見直しや時間外労働に関するルール変更に伴い、新たな届出様式が定められたりしています。また、年次有給休暇の時季指定義務については、労働者からの意見聴取など運用上のルールを定めております。いずれの改正も明らかな必要性に伴って行われたものといえます。
一方で、過半数代表の選任についての事項は、具体的なルール変更というよりも行政側の『意思表示』とも言える項目が記載されたことには注意が必要といます。
過半数代表者について
この項目の改正点は2つ
① 現在の規則では 『法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、選挙等の方法による手続により選出されたもの者であること』とされていますが、改正後はこれに加えて『使用者の意向に基づき選出されたものでないこと』という一文が加えられることになりました。
② 新たに過半数代表者が協定等の事務を円滑にできるよう必要な配慮をすることが定められています。
特に注意を要するのは①といえます。これまでも解釈例規では『使用者の意向に基づき選出されたものではないこと』との解釈が示されていた。今回の施行規則に改めて明記されたことで、「使用者の意向で選出した過半数代表が合意した労使協定は無効とする」という行政側のメッセージを強く感じる改正といえます。
さらに注目したいのが、使用者側によるどの程度の言動が『使用者側の意向で選出された』とされてしまうかという点である。無論、使用者が逆指名し、ろくに労働者間で話がなされずに決まる場合は問題外といえるが、使用者側が会社の事情を良く知る人物であったりある程度程度評価する労働者に対して、『やってみたらどう』と働きかけるのはどうなのか考えさせられる。
労働条件の明示について
施行規則で定める内容は労働基準法15条の労働条件の明示についてその詳細を定めたものであるが、ここでも改正点は2つです。
①明示する労働条件を事実と異なるものとしてはならないという条文を新たに加えたこと。
②労働条件の明示方法はこれまで「書面の交付」のみが認められていたのが、今回Faxでの送付や労働条件を明示した書面をメールへに添付する形でも良いとされています。
上記の②については、今まで書面を直接手渡しすること以外が認められていなかったということに驚く方も多いと思う。私自身行政の仕事をしていてこの問い合わせを何度か頂いたことがあったが、その都度説明には苦慮させられた。
今回は、今の時代に合っていない方法でしか労働条件の通知が認められていなかったものが当然改められた認められた格好といえる。
一方で、①については、一見「当たり前のことではないか」という印象も持つが、あえてこの条文を追加したことに大きな意味があるといえる。そもそも労働条件の明示なので、これが事実と異なるというのは、あってはならないことだが、あえて規則に入れたことの意図を考える必要がある。
事実と異なった書面を交付した場合にはその書面が無効となる、或いは、そもそも交付していない扱いとなることもありえる。つまり労働基準法違反としての扱いを受ける可能性が高いので注意が必要といえる。
まとめ
今回注目した2つの改正はいずれ大きなポイントとなることが想定される。特に、過半数代表者の選任においては、その選任方法と使用者側の介入の程度によっては締結された労使協定などが全て無効となってしまう恐れがあるため、今後は相当注意を要する。
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