行政ウォッチ 監督署に無効とされた裁量労働制について(不適正な労働者過半数代表選出)
平成30年9月
今月、裁量労働制を導入している企業に対し、裁量労働制の適用を無効とした労働基準監督書の判断がなされた。先日、労働基準法の施行規則に関連して、労働者の過半数代表のあり方について投稿したばかりだが、まさにこれが今回のポイントとなった事例といえるので、解説したい。
事案概要
東京にある建設事業所が従業員に対して裁量労働制を不正に適用していたとして中央労働基準監督署が是正勧告を行ったとのこと。当該会社は専門業務型裁量労働制を適用していたが、この専門業務型裁量労働制については使用者側と労働者側の過半数代表者との間で労使協定を締結し、当該労使協定を労働基準監督署に届け出る必要がある。中央労働基準監督署は労働者の過半数代表とした労働者は会社側が指名して者だったとのことで、協定に基づく同制度の適用を無効とした。
このことを受けて、同署が違法な残業があったこと及び残業代が支払われていなかったことで是正勧告を行ったという。
労働者過半数代表の選出
労働者の過半数代表については適正に選出されない場合、当該過半数代表が締結した労使協定は無効とされる恐れがあり、適正でない選出だったことで現実として無効とされたのが今回の事案。
過半数代表を選出する一つの重要な用件としては『法に規定する協定等をするものを選出することを明らかにして実施される投票、選挙等の方法による手続により選出されたものであること』と労働基準法の施行規則に定められています。
つまり、労働者の皆様に『労使協定を結ぶために過半数代表を選ぶので宜しくお願いします』ということをはっきりアナウンスした上で、民主的な方法で選出することが基本となります。そうしないと今回のようにその協定自体が無効になる恐れがることを意識しなければならないということです。
過半数代表の選出は、ここへ来て大きく注目され始めているといえます。今回の裁量労働制を初めとして時間外労働の労使協定(いわゆる36協定)等、労働基準法では労使協定を締結することで多くの制度の適用が認められます。労使協定は本来、労働者の過半数が加入する労働組合と使用者の間で締結することを前提としていますが、昨今は労働組合がない事業場も多く、現実としては労働者から過半数を代表する従業員が労使協定の当事者となることは少なくありません。
最近は選出された労働者が本当に労働者の代表者として労働者側の意向を反映した協議が行なわれているのか疑わしい局面が多く、こうした懸念が強く持たれていることから、労働基準法施行規則が改正され、労働者の過半数代表の選出についても、新たに『使用者の意向に基づき選出されたものでないこと』という条件が加えられました。つまり、「労働組合に代わって、労働者の代表者として労働者の意見を取りまとめ、労働者の立場を守るために必要な交渉を使用者とすることを求め、その結果として労使間で合意された協定でなければ有効としない」というルールをより明確にしたといえます。
このことについては、つい先日小職も投稿したところです。小職の投稿は過半数代表選出の要件ごクリックして確認下さい。
いずれにしても、今回の裁量労働制の適用に限らず、労働者の過半数代表の選出が適正に行なわなければ、選出した労働者代表と合意した労使協定は全て無効になる恐れがあるので、細心の注意を払いましょう。
裁量労働制の適用が無効になるとどうなる
さて、今回の事案では導入された裁量労働制が無効とされたことになります。この場合、通常の法定労働時間の適用を受けることとなります。つまり、1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超える労働は原則禁止で、36協定の届出がある場合は、そのの範囲内の時間外労働しか許されません。
裁量労働制の下では何時間労働したとしても、あらかじめ協定で合意した『みなし労働時間』働いたとされ、そのみなし労働時間が8時間であれば実際の労働時間に関わらず法定時間外労働はカウントされません。
裁量労働制が無効になった場合は、1日8時間を超える労働時間が全て法定時間外労働となり、割増賃金支払いの対象となります。場合によって大きな賃金の未払いが発生してしまうリスクが生じます。
今回の場合はその未払い賃金の金額が700万円とも報道されています。
裁量労働制について
裁量労働制そのものについては、小職も何度か投稿していますが、決して悪い制度ではありません。業務の種類や仕事の進め方によっては、単にどの日も1日8時間労働と決めて終了するよりも非常に有効な働き方といえます。ただし、導入の仕方や手続きを正しく行なわなければなりません。今回のケースではそもそもの労使協定の過半数代表者の選任の段階で無効とされました。過半数代表の選任のほか、実態の即した適正な『みなし労働時間』での合意や、対象労働者の選定等で問題が生じる場合があります。
導入に際しては専門家のアドバイスを受けることをお薦めします。
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