シリーズ同一労働同一賃金 ① 基礎編 「同一労働同一賃金」って何?
平成30年 12月
「働き方改革」の最重要テーマである『同一労働同一賃金』今月厚生労働省からガイドライン最終案が発表され、いよいよ本格的準備段階に入ったといえる。改正法は平成32年4月(中小企業は1年後の33年)と一見まだまだ時間に余裕がありそうだが、実はそうではない。そこで、改めてこの『同一労働同一賃金』をシリーズ取り上げ、来る導入開始までどのように準備すればよいかを合計4回に分けてお届けする。現時点でイメージしている各回の内容は以下の通りです。
第1回 基礎編 「同一労働同一賃金」って何?
第2回 実務編 具体的に何が変わるの?(直接雇用編)ご覧になりたい方はここをクリック
第3回 対応策 使用者は何をどんな準備をしなければならないのか?近日公開予定
第4回 派遣編 派遣労働者はどう変わるのか? 近日公開予定
今回はその第1回基礎編をお届けします。かなり基本的なところから始まりますので、「基本的なことは分かっているよ」という方々は第2回からの内容をお待ち下さい。
同一労働同一賃金の本質
同一労働同一賃金を言葉通りに捕らえると、「同じ仕事をしている人の給料はみんな同額にしなければならない」という印象を持つ人が多いかもしれないが、実は全く違う話であることを認識すべきである。
そもそも、この同一労働同一賃金とは安倍政権が勧める『働き方改革』の最重要テーマであることは皆さんご承知の通りと思うが、そこでは、この同一労働同一賃金について「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を解消」することとしている。このことが同一労働同一賃金の本質として認識されなければならない。そこで2つの重要事項を取り上げる。
そもそも誰と誰を比較するのか
説明のとおり、同一労働同一賃金とは、あくまでも『正規雇用』と『非正規雇用』との間の話であることが第一の重要ポイントである。つまり、正規雇用同士、或いは、非正規雇用同士で待遇に差があっても同一労働同一賃金の観点だけでいえば問題がないということになる。また、非正規雇用とは誰を指すのかということになるのだが、基本的に3種類の労働者が保護対象の労働者とされる。それは、短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者である。
つまり、正規雇用と短時間労働者、正規雇用と有期雇用労働者、そして正規雇用と派遣労働者、これらの間に不合理な待遇差があれば問題となるが、それ以外は同一労働同一賃金としての問題とはならないということになる。
賃金だけの話ではない
もう一つ注意が必要なのは、前述の通り、同一労働同一賃金では「不合理な待遇差の解消」が目的である。あくまでも『待遇』の差ですので、何も賃金に限られた話ではないことも認識しなければならない。今般告示された大臣指針でも取り上げられているが、賃金以外の福利厚生等の待遇に『不合理な差』があれば認められないこととなる。例えば、会社の休暇制度で正社員と契約社員で差を設けている場合等がその典型例といえる。
同一労働とは何を指すのか
同一労働同一賃金において、「同一の労働」かどうかを考えるときには、3つのキーワードが登場する。
その3つとはA.変更の範囲B.業務の内容 c.責任の程度である。(このうちBとCをあわせて職務の内容という場合もある)。この3つの要素がどの程度同じなのか、どの程度違うのかが重要なポイント。
変更の範囲とは
3つの要素のうちBとCについては比較的わかりやすい。また厚生労働省の通達にもその考え方が示されている。一方で少しわかりにくいのが「変更の範囲」であり、ここで簡単に解説する。
会社が従業員を有効活用するにあたって、人事上行うことができるのは「職務内容の変更」と「配置の変更」である。つまり、担当する仕事の内容、そして、働く場所を異動させる、まさに人事異動である。変更の範囲というのは、この2つの人事上の権利を会社がどの範囲までできるのかというもの。基本的には労働契約や就業規則で具体的に定められている事項である。
一般論であるが、パートで働く方の多くは、仕事の内容も働く場所も変更されない約束の下で働いているケースが多い。一方で、いわゆる総合職といわれる従業員は仕事内容も変更されるし、働く場所も全国どこへでも異動になる場合が多い。
この「変更の範囲」は、実際に人事上の異動があったかどうかではなく、異動させられる可能性があるかどうか、そして異動がありうる場合は「どの範囲」までありうるのか、がポイントである。
均等待遇と均衡待遇
非正規雇用の中でも、上記3つの要素が全て、正規雇用と同じであると判断される場合、「通常の労働者と同視すべき」非正規雇用労働者という立場となる。この場合、正規雇用と全く同じ扱いにしなければならず、異なる扱いとすることが許されない。このことを「均等待遇」と呼ぶ。
一方、3つの要素で多少の違いがある場合は、正社員と異なる扱いをすることが認められているが、3つの要素を考慮した上での、不合理といえる待遇差は禁止される。つまり、3つの要素における違いに応じて、説明のつく範囲での待遇差ならばよいが、説明がつかない待遇差をつけたら行けませんということである。このことを「均衡待遇」と呼ぶ。
法改正の大枠
現行の法制度
同一労働同一賃金で待遇を確保する3種類の非正規雇用労働者については、現在それぞれ別の法律で保護が図られています。具体的には、短時間労働者はパートタイム労働法、有期雇用労働者は労働契約法、派遣労働者は労働者派遣法にそれぞれ保護規定があります。
しかしながら、パートタイム労働法は比較的細かな部分までの定めが多くある一方で、有期雇用労働者については労働契約法の20条に、いわゆる均衡待遇の規定があるだけで、充分とはいえません。
今回の法改正の大枠
上記の通りの状況であるため、今回の改正はパートタイム労働法で従来の短時間労働者に加えて有期雇用労働者を適用の対象とする改正を行い、その一方で労働契約法20条を廃止する。つまり、直接雇用の非正規雇用労働者はまとめて現在のパートタイム労働法を適用する形にし、新たにパートタイム・有期雇用労働法とすること。その上で、この法律を少しバージョンアップさせること。
一方で、派遣労働者については、バージョンアップされた短時間・有期雇用労働法と同様の程を派遣労働者にも図ることとなります。
以上で基礎編を終了いたします。次回第2回は実務編 具体的に何が変わるのかをお届けします。お楽しみに。
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