シリーズ同一労働同一賃金 ② 実務編 具体的に何が変わるの?
平成31年1月
「働き方改革」の最重要テーマである『同一労働同一賃金』。厚生労働省のガイドラインが昨年末に告示され、いよいよ本格的準備段階に入ったといえる。改正法の施行は来年4月(中小企業は1年後の再来年)とまだ時間に余裕がありそうだが、実はそうではない。
弊所では、昨年12月より、『同一労働同一賃金』をシリーズとして取り上げ、来る導入開始までどのように準備すればよいかを合計4回に分けてお届けしている。今回は第2回になるが、現時点で想定している各回の内容は以下の通り。
第1回 基礎編 「同一労働同一賃金」って何? 第1回をご覧になりたい方はここをクリック
第2回 実務編 具体的に何が変わるの?(直接雇用編)
第3回 対応策 使用者は何を準備をしなければならないのか?
第4回 派遣編 派遣労働者はどう変わるのか?
今回はその第2回 実務編をお届けします。法改正の大枠については第1回の基礎編でお届けしたが、今回は直接雇用する短時間労働者及び有期雇用労働者について、より具体的な法改正の内容を整理する。
改正法の全体像
基礎編でも説明の通り、改正法はパートタイム労働法を基本として、パートタイム労働法で保護の対象としていた短時間労働者に加えて有期雇用労働者も対象とすることになる。従って、現在のパートタイム労働法を有期雇用労働者に適用するのが基本となり、今改正ではさらに同法をバージョンアップする。
比較対象の拡大・もう一つの重要改正点
法全体に係るもう一つの重要な改正点は、比較対象とする通常の労働者(正社員)の範囲である。
現在のパートタイム労働法では、短時間労働者は「『同じ事業所に雇用される』通常の労働者と比較して不合理な待遇差は認められない」とされている。つまり、短時間労働者にとって不合理な待遇の差があるのか・ないのかを判断するときに比較される通常の労働者は、あくまでも同じ事業所に雇用される労働者に限られる。
改正法では、同じ事業所に雇用されるかどうかに限らず、同じ事業主に雇用されていれば比較対象とする。このことで、比較対象とする通常の労働者の範囲が拡大されることになる点に注意が必要。
バージョンアップの内容
今回の改正では、従来のパートタイム労働法に対し2つの観点で手が加えられている。このことをもって「バージョンアップ」と言っているのだが、それが、
①司法判断を求める際の根拠を整備すること。
②事業主の労働者に対する待遇の差に関する説明を義務化すること。
大きくいうとの2点である。
注目すべき具体的な法改正
法改正により、重要な影響が予想される点が3つありますので、簡単に解説する。
均衡待遇の明確化
上記バージョンアップの①にあたる内容。
基礎編で説明したが、現在の法8条では、均衡待遇が求められている。ただ、現在の8条は単に「不合理な待遇差はダメですよ」といっているに過ぎず、詳しい考え方を示していない。そこで、司法での判断がより明確にできるために、もう一歩踏み込んで2つのことを法律に書き加えている。以下はそのポイント
(1)待遇差が不合理かどうかは、待遇ごとにそれぞれ判断するということ。
基本給なら基本給、賞与なら賞与、○○手当なら○○手当て、といったように、それぞれの待遇ごとに不合理なのかどうかを独立して考えるということ。例えば、毎月受け取る賃金全体でどれだけ差があるのかという観点ではなく、それぞれの待遇一つひとつを取り上げて、不合理な待遇差なのかどうかを判断する必要があると条文上に明確に示した。
(2)個々の待遇が不合理かどうかについては、それぞれの待遇の目的や趣旨を考えて判断すること。
上記の通り、不合理かどうかは、その待遇ごとに判断するのだが、その判断にあたっては、「その待遇を何のために行なっているのか?」という、その待遇を実施している目的や趣旨を踏まえて判断しなければならないという考え方を示した。その目的や趣旨を踏まえて、正規雇用と非正規雇用との間で待遇に差を設けることが妥当なのかどうかを判断するという考え方を条文上で明確に示した。
有期雇用労働者にも均等待遇の適用
ここは前述のバージョンアップではないが、重要なポイントであり、注意が必要である。
今回の改正で、パートタイム労働法の保護対象に有期雇用労働者が加わったことで、当然のことながら、有期雇用労働者も法第9条で求める『均等待遇』の対象となる。しかしながら、現在の有期雇用労働者は、これまで労働契約法20条で均等待遇は求められていたものの、均等待遇は求められていない。
基本編で解説しているが、『業務の内容』・『責任の程度』・『変更の範囲』という3つのキーワードのいずれもが通常の労働者と同じ場合、その短時間労働者或いは有期雇用労働者は「通常の労働者と同視すべき短時間労働者・有期雇用労働者」という扱いになる。この場合、法第9条の『均等待遇』が適用され、通常の労働者と違った扱いをすることが禁止される。つまり、第9条の適用対象となった場合は、その差が合理的であるかどうかに関わらず、待遇に差を設けていること自体が違法となるので充分な注意が必要である。
短時間労働者で均等待遇の対象になる労働者は比較的少ないものの、今回の法改正により、有期雇用労働者まで範囲が広がると、多くの労働者が対象となると考えられている。
通常の労働者との待遇差の内容及び理由の説明を義務化
バージョンアップの2つ目の項目である。
この改正により、新たな説明責任が発生し、これが使用者には重たい負担となることが充分予想される。具体的な改正内容を解説する。
現在のパートタイム労働法14条でも使用者には一定の説明義務が課されている、ただ、現状の説明責任はあくまでも「『均衡待遇』や『均等待遇』を確保するために使用者がどのような措置を講じているのか」ということについての説明すればよい。改正法では、この14条をより具体的な待遇の中身に関する説明責任を課す形となっている。具体的には、短時間労働者、或いは、有期雇用労働者は、使用者に対して「自分と正社員との待遇はどこがどう違うのですか?」ということを聞くことができ、聞かれた使用者はこれに応えなければならないというものである。
さらに、その内容は短時間労働者や有期雇用労働者が充分理解できるように、具体的な資料を下に示さなければならないとしている。
その説明方法としては、比較対象とすべき「通常の労働者」が実際に受けている待遇の中身を説明するか、或いは、通常の労働者に適用されている賃金テーブルや等級表等を示して説明することが求められている。
使用者に求められる「説明責任」
第3回の対応策編で具体的な対応策については、より詳しく解説するが、今回のまとめとして、使用者が最も重要視しなければならないのが説明責任である点について少し述べたい。
現状の問題点
現在の一般的な使用者側の実態を考えると、最大の問題点は雇用形態が違えば処遇に差があって当然と認識されていることと感じる。例えば、「契約社員だから家族手当はありません」「パート社員だから通勤手当には上限があります」といったように、雇用形態に違いによる処遇の違いの説明以上の説明を行わなっていないケースが実に多い。
雇用形態が違えば、当然に処遇も違って当たり前という考えが背景にあると思われるが、結果としてそれ以上の説明をする努力を怠ってきたともいえる。
ただ、この考えは、むろん問題で、現在のパートタイム労働法や労働契約法20条でも、認められていない。今回の働き方改革により、この点がクローズアップされたことで、こうした考え方の間違いについてはより広く認識される方向に向かうと考えられる。従って、使用者は一歩踏み込んだ説明の準備が必要となる。いわゆる「正しい説明責任を持つ」ことが求められているといえる。
今後必要となる説明責任
上述した『説明責任』とは、今回改正されるパートタイム・有期雇用労働法14条における説明責任の観点からではなく、同一労働同一賃金に関する観点での説明責任ということに他ならない。
つまり、単に「契約社員だから」・「パートだから」・「嘱託だから」といった雇用形態の話ではなく、「契約社員と正社員は業務内容がこのように違うから、待遇がこう違うんです」といったところまで説明することが本来は求められるという意識を持たなければならない。
実は、このことが説明できれば、同一労働同一賃金はそれほど恐れる必要がないとも言える。ただ、逆に言えば、説明できなければ同一労働同一賃金が本格化する中で大いに苦労することが予想される。
違いを説明するキーワード
最後に、通常の労働者と短時間労働者・有期雇用労働者との違いについて説明するにあたっては、基本編でも説明した3つのキーワードによる違いの説明が原則として求められることを再確認する。(定年退職後の処遇のように例外的に「その他」の要因で違いがある場合もある)
つまり、『業務の内容』・『責任の程度』・『変更の範囲』において、どこがどのように違うのか。このことが説明できるかどうかがポイントといえる。使用者は今後、これが説明できるのかどうかということを意識して会社のルールや制度等を整備して来るべき同一労働同一賃金に備える必要があるといえる。
宍倉社会保険労務士事務所
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