裁判例から学ぶーアルバイトに賞与を支払わなければならないのか
平成31年04月
先日取り上げたメトロコマース事件に続き、今回は大阪医科大学事件を取り上げる。いずれも労働契約法20条での違法性の有無を争ったもので、今後の同一労働同一賃金本格化に向けて注目すべき裁判である。
退職金の支払い有無に関する焦点が当たったメトロコマースと違い、こちらは賞与の格差について注目の判断がなされた。
大阪医科大学事件の概要
本件は、大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)の職員であった50代の女性が、正社員には支給されている賞与がアルバイト職員の自分自身には支給されないことが、労働契約法20条違反となる、不合理な待遇差にあたるとして1270万円の損害賠償を求めていたもの。2018年1月に下された大阪地裁の判決では、この女性の請求はことごとく退けられた結果になったが、今年2月の大阪高裁では一転して大学側に支払いを命じる判決を下した。
支払い命令は110万円と原告側の要求を大きく下回るものではあったが、これまでいわゆる非正規雇用労働者に対し賞与の支払いを命じる判断を下したのは初めてで、注目に値する。原告側は、判決を「画期的」としながらもこの金額には不服として最高裁に上告したとされている。
地裁判決と高裁判決の考え方の違いとポイント
一審の大阪地裁判決では、「正社員の雇用を確保する動機付け」として正社員とアルバイトに違いがることには一定の合理性があるという判断を示した。これによって、賞与が支給されないことも含め、原告が訴えた格差についていずれも不合理という判断は下さなかった。
これに対して、高裁はアルバイトであっても賞与をまったく支給しないのは不合理と判断した。また、正社員には支給される夏季休暇や休職制度に違いがあることも不合理とした。
高裁がこうした判断を下した背景には2つのポイントがあるといえる。
1つ目は、原告女性が単なるアルバイトではなく、フルタイム勤務をしているということにあるといえる。いわゆる、雇用形態は有期労働契約で「アルバイト」という名称での雇用かもしれないが、短時間の勤務ではなく正社員と同じだけ勤務時間になっていることであった。
2つ目は、賞与支給額の計算方法にある。同大学では、業績や年齢を考慮せずに賞与支給額が決まるということであるが、これにより、少なくても「賞与は就労したこと自体に対して支給する考えである」と結論付けており、全く支払わないとすることは不合理と判断した。賞与については、同じ非正規である契約職員に対しては正社員の8割支給という実態があるため、アルバイトがゼロ支給という説明がつかないという考えである。
使用者は何を学ぶべきか
昨年6月の最高裁判決以降、正規雇用と非正規雇用の処遇差は、より厳格に判断される傾向にある。今回の大阪医科大学事件のように地裁では「正社員の雇用確保」或いは「長期雇用社員の優遇」といった、『ふわっと』した理由が認められる場合もあったが、ハマキョウレックス事件で、この考えが否定されたことで、以降注目される高裁判決ではより厳密に正規と非正規の違いを説明できなければ認められない傾向となりつつある。この点に使用者は気付かなければならない。
その上で、より具体的には以下のことに留意しなければならない
正規と非正規の違いを明確にする
もはや雇用形態やその名称だけで処遇差を設けることは認められない時代に入ったといえる。正社員はどういう責任があるのか、契約社員やアルバイトとは何が違うのか、これらに対して明確な答えをまずは用意しなければならない。
その上で、仮に処遇差を設けるとするならば、その処遇差は正規と非正規の違いによって説明できる(正当化できる)ものでなければならない。
そのことを踏まえて、今回の事案での注目ポイントを2つ検証する。
賞与の支給方法ついて
賞与については、具体的にどのような根拠で支給するのかについては、慎重に検討しなければならない。まず、そもそも賞与は何に対して支給するのかを整理する必要がある。
一般的に賞与は様々なものに対して支給するものである。例えば、業績が良かった場合の業績給的な要素もあれば、「賞与」という名の下にあらかじめ支給額(基本給に対する支給月数)が決まっている場合もあるが、これは勤務したことに対する報酬の色が濃くなってしまう。
今回の事件のように、ある程度自動的に賞与の支給額(支給月数)が計算される仕組みとなっている場合は、個々の従業員の功績に対して支払うものではなく、皆さんに一律にある程度支給するという正確のものと解釈される。そうなると仮に正規と非正規職員の間に職務の差があったとしても、いわゆる100-0というわけには行かなくなる。
やはりアルバイトにも何らかの至急をすることが求められる可能性は大きいといえる。
その他の手当や処遇
休暇制度については、日本郵便事件でも取り上げられた、今後注目すべき福利厚生の項目である。夏季休暇や休職制度などが今回争点となったが、フルタイム勤務であれば、正社員との処遇差が認められにくくなる傾向は今後とも続くと考えられる。
同じアルバイトでもフルタイムとそうでない社員の処遇は分けて考えなければならいといえる。
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