コロナ対策 従業員との雇用契約の解除に関する留意点
令和2年6月
コロナウィルスに係る緊急事態宣言が先月25日に全地域で解除された。しかしながらその直後から感染者数の増加やクラスターと呼ばれる集団感染が確認されるケースが目についていたが、東京都は解除後わずか10日で「東京アラート」を発することとなった。
すぐに緊急事態宣言の前の「日常」が戻ってくると考えている方は少なかったとは思うが、やはり今後も一定の注意が求められる状況が続くものと改めて認識させられた。一部専門家では、消費の冷え込みを中心とした景気への深刻な影響は今後現れてくると予測している。
そうした中、このコロナに関連した人事労務の課題を3回のシリーズで取り上げてきたが、今回はその最終回。『雇用契約の解除における留意点』を取り上げる。
断わっておくが、今回のコロナによる経営悪化を含めて、使用者の責任としては可能な限り雇用を維持し、雇用契約の解除は最終手段と私も考えている。ただ、その雇用契約の解除をせざるを得ない状況になったときに、いくら経営状況が厳しいからといっても突然の解約はできない場合がある。そうした留意すべき点を今回は皆さんと確認したい。
期間の定めがない従業員と期間の定めがある従業員では根本的に扱いが異なる
多くの方が認識していると思うが、期間の定めがある雇用(有期雇用)の従業員か期間の定めのない雇用(無期雇用)の従業員かによって大きく対応が異なる。一般的に正社員といわれる雇用区分の従業員は無期雇用であり、そうした従業員との雇用契約を解除することは非常に難しい。
正社員の雇用契約の解除はいわゆる解雇にあたり、特に業績悪化による解雇は整理解雇に分類されるが、整理解雇の対応については4月にすでに整理しているので、興味がある方は、そちらをご覧いただきたい。こちらをクリック。
従って今回は特に有期雇用労働者との雇用関係の終了に焦点をあてて整理したい。
雇用契約期間中の解約は難しい
有期契約により雇用する労働者との雇用関係を終了させる場合、雇用契約満了時に更新しない、いわゆる「雇い止め」をする場合と、契約期間の途中に解約する場合とでは話が大きく違う。後で解説するが、契約期間満了時に更新しないことは一定の範囲で認められている。その一方で、契約期間満了の前に解約することは、解雇することと同等であるため、基本的には難しいと考えられている。
無期雇用の従業員を解雇することが難しいという点についてはこれまも触れてきたが、有期雇用の従業員を契約期間中に解雇することはそれ以上に難しいという考え方もある。
有期雇用従業員の雇用契約では、そもそも「契約期間」が決まっているので、契約期間の満了時に契約を更新しなければ自ずと雇用関係が終了することとなる。それにもかかわらず契約期間の満了を待たずに、今、あえて解雇しなければならないほどの理由があるのか?という点が契約期間中の解約のハードルを高くしているといえる。
解雇には「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3種類あるされているが、いずれの場合でも、契約期間満了を待たずに、『今』雇用関係を終了させなければならない理由がなければ、解雇が無効になる可能性が高くなる。
一般的には、懲戒解雇は会社の秩序を維持する目的で、『今』解雇することに合理性がある場合が多いが、普通解雇や整理解雇については、『今』解雇することの必要性が説明できなければ無効となる可能性があると考えられる。従って、使用者側としてはその準備を整えておくことが肝要といえ、単に「業績が悪くなったから」といった理由より一歩踏み込んで、有期雇用労働者を「今」解雇しなければならないほどの業績悪化である点説明するところまでが求められる。それができないのであれば契約期間の満了まで雇用することをお勧めしたい。
雇用契約満了時の更新について
有期雇用の従業員については雇用契約の期間があらかじめ定められていることから、期間が満了した場合にはそこで一旦雇用関係が終了する。契約内容はともかく雇用契約の更新が成立すれば雇用関係は継続することになるが、その雇用契約の締結にあたっては、契約を更新するもしないも含めて当事者双方にその自由があるため、使用者が契約を締結(更新)しないことを選択することもできる。
つまり、使用者側には契約を更新しないという選択肢があり、無理やり契約の更新を強制られるものではない。これが原理原則の考え方である。
ただし、この原理原則に反して契約の更新をしなければならないケースがある点に留意が必要である。
そもそも雇用契約を継続することを約束している場合
有期雇用の従業員に関する原理原則は説明の通りであるが、初めから契約の更新を約束している場合がある。そうした従業員については契約の更新は行わなければならない。
会社の規程上にそうした定めをしている代表的な例が、定年退職後の継続雇用等であり、そうした従業員に対しては多くの企業が65歳までの継続雇用を会社の規程上で約束している。
このように会社が規程上で定めている場合のほか、雇用契約上で契約の更新を約束している場合もある。法律上、有期雇用契約を締結する際、契約の更新について「する」・「しない」・「する場合がある」の3つのどれに該当するかを雇用契約上で明示する義務がある。これに則って契約更新を『する』としていれば、当然契約の更新をしなければならない。
雇い止めが無効になる場合について
一方で、上記のように契約の更新が約束されているわけではない場合あっても、使用者が契約の更新を拒むこと(雇い止め)ができない場合が労働契約法に定められている。
平成25年(2013年)に同法が改正された際、追加された19条の条文において、雇い止めが無効となる場合が明記された。この条文はそれまで裁判で積み上げられてきた「雇い止め法理」を条文上で明記したものといえるが、使用者が雇い止めを行った場合に無効とされる以下2つのケースを明示している。
① 形式上は有期雇用契約となっているが、契約が反復して何度も更新されていて、実態上は無期雇用契約と同じとみなされるケース。
② 契約している労働者が、有期雇用契約が満了したときに、契約が更新されると思うに至る合理的な理由があるケース。
この2つのいずれかに該当する場合には雇い止めができないということになる。これを踏まえて少し具体的な話を整理する。
雇い止め無効とならないために留意すべきこと
前記の通り、労働契約法では雇い止めができないケースが明記されている。そこで、それぞれのケースで何に注意すべきかを整理したい。
実態上無期雇用とならないために
まず、①にあった、「形式的には有期雇用契約だがその実態が無期雇用とみられる場合」であるが、これについてはまず「これまでに反復して更新してきた」ということが前提になるので、更新したことがない(今度始めて更新する)従業員や1度しか更新したことがない従業員は原則として対象にならない。具体的にどのようなケースが該当するかは過去の裁判例で考え方が確立されつつあるが、ベースとなる考え方は、実質的に無期雇用の従業員といえるかどうかである。そこで以下のようなポイントに注意すべきである。
*更新の手続きは適正に行っているか
最も問題となりうるのがこれである。有期雇用契約の更新を行わない場合は契約期間が満了する30日前には通知することになっているが、同様に、更新する場合も30日前には新しい契約を締結する(少なくても契約の内容についての協議を開始する)ことが望ましい。その際、満了する契約期間の労務提供に関する評価や新しい契約に期待することなど従業員としっかりとした協議を行うことが望まれる。
逆にいえば、契約満了前に十分な協議が行われない場合や、契約の満了日が過ぎてから遡って契約書を締結するなど、更新の手続きが形骸化している場合は適正に行っているとはいえず「実体的には無期雇用」と判断される可能性が高いので注意が必要である。
*これまでどの程度反復更新してきたのか
仮に更新手続きを適正に行っていたとしても、毎年毎年繰り返し更新してきている場合は、使用者・労働者双方にとって更新されるのが何となく「当たり前」になることが多いといえる。そうした「更新されることが当たり前になっている」状況で、「契約期間があるから」という理由で更新しないことは問題と考えられている。では、何年反復更新したらそうなるのか?ということがポイントになるが、これには明確な年数などの指標はない。ただ、5年以上継続更新をしてきた場合は、労働契約法の18条で別途定められている『無期転換ルール』にも該当することから「実体的に無期雇用」と判断される可能性は高まるといえる。
*どのような業務を担当させているか
担当する業務内容において重要な考え方は、どのような業務をさせているのかという観点である。一般的にパートやアルバイトが行うような単純業務に就く場合と基幹的な業務に就く場合とでは考え方が異なるとされている。一例として、契約社員だが会社の経営企画業務や中期戦略を策定するような業務についていれば、会社の中核業についていると言える。同じ会社で無期雇用の正社員が行っている業務と同程度の業務を行っていればそうした社員と同様の考え方をすべきといえる。
契約更新の合理的な期待
こちらのケースは、①のケースと違い、一度も契約更新していない状況でも適用されることに注意が必要である。
典型的な例としては、有期雇用契約で雇用されることに抵抗を示している候補者に対して面接官が、「有期雇用契約は形式的なもので実質的には無期雇用と一緒です。契約期間があるが『基本的には更新する』ので気にしないでください」といった発言をする場合。
日常業務の中で、長期プロジェクトに組み込まれて重要な役割を与えられるなど、契約期間の満了を過ぎても就労し続けることが前提となっている場合や、人事権を持つ上席者が、契約の更新を事実上約束するような言動がこれにあたる。
そうした言動は例を挙げると限りがないが、有期雇用の従業員の人事に係る権限を有する者は十分に注意すべきである。
最後に
有期雇用であれ無期雇用であれ、従業員との雇用関係を解消することは会社にとっても従業員にとっても大変大きな決断であり、もたらす影響も非常に大きい。ただ、そうした決断をしなければならない状況ではこれまで説明の点に留意しながら従業員には丁寧に説明し、しっかり向き合うことを心掛けていただきたい。
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