アフターコロナ対応 テレワークのルール整備できていますか?
令和2年6月
ここ数か月は新型コロナウィルス一色であった人事労務関連の話題だが、先日、いわゆる「都道府県をまたぐ移動」が一定程度解禁となり、ようやく「日常」が戻りつつある状況といえる。
この間、多くの企業でテレワーク勤務の対応をされたが、このテレワークに関して各方面でアンケート調査も最近公表されている。多くの調査では「テレワークをやってみてよかった」という結果が出ており、今後ともテレワークを一定程度継続したいと考えている企業が多いことが読み取れる。そこで、今回はテレワークルール化の注意点としていくつかポイントの整理をしたい。
ルール化の必要性
今回の新型コロナウィルスによる外出自粛はある意味突然やってきたといえる。このため実際のところテレワークのルール整備を行う間もないままテレワーク状態に突入した会社も多かったといえる。また、そうした規程等があった会社でも実際に運用してみると様々な問題点が浮き彫りになった会社も多かったと思う。
今後本格的にテレワークに取り組むことを想定して、これを機にしっかりとルール整備するべきだが、テレワークは事業の種類(業種)や、会社の方針によって、それぞれ内容が全く異なるもである。厚生労働省もテレワークのモデル規程などを公表しているが、これをそのまま適用することには一定の難しさがあるといえる。
そこで、テレワークのルールを整備するにあたって、会社はどんなことを考えて、どんなことを決めるべきなのかを整理したい。
テレワークルール作成で検討すべきポイント
テレワークルールを作るにあたって、検討すべきポイントは大きく分類すると5つのカテゴリーがあるといえる。前述の通り、それぞれの会社にとってテレワークのルールは異なるべきものであるので、一般的なルールではなく、自身の会社の実態にあったルールを作られることを奨励したい。
対象者の選定とその手続き
入口の段階で最も重要なのは、テレワークを認める対象従業員を誰にするのか?ということを含めた対象者とその承認手続きを決めることである。細かいポイントは3つ。
*対象者の選定
全員を対象とするのか、特定の部署を対象とするのか、特定の役職を対象とするのかという点である。
このとき注意いただきたいのは、合理的な理由がないのに区別や差別をすると、従業員の中で不平不満の下となる等問題が生じる可能性があること。また、正社員のみに認めるとか、男性のみに認めるといったことは別の問題につながるので慎重に検討すべきである。
*テレワークの手続き
テレワークができる対象の従業員が実際にテレワークするためにはどのような手続きが必要なのか。
許可制にするのか、許可を得ることなく、「自由に」テレワークできるのか、などその手続きを決めなればならない。許可制にする場合は、どのようなケースだと『許可しない』のかは、あらかじめ整理しておくべき(規定に落とし込むかどうかは別に)と考える。
*テレワークの停止
一方で、実際にテレワークを行っている従業員に対し、業務上の理由や、従業員本人の問題などによりテレワークを認めない(許可の取り消し)ことができるようにするのかという点である。許可の取り消しについては、規程等に定めていないとトラブルの元になるので、許可の取り消しなどについては明確に定めることをお勧めしたい。
テレワークの適用期間とテレワーク対象者の出社について
テレワークを取り入れ際、極めて重要なのは、その日その日で個別に申請・許可させるのか、一定程度包括的に認めるのかのどちらにするかである。前者は、テレワークを希望する社員にその都度申請をさせて許可する形になるので比較的シンプルである。一方で後者は一定期間(例えば〇〇月の1か月間)はテレワークを認めるというケースである。この包括的にテレワークを認める場合には、その期間の出社をどうするかという点もあわせて検討しなければならない。以下、包括的テレワークの場合の留意点を挙げる。
テレワークのデメリットの一つとして、直接顔をあわせないために意見交換などコミュニケーションの機会喪失があげられる。これを避けるために、1週間に1度などテレワーク中の社員であっても一定の頻度で出社を求めることが必要と考える。会社は包括的テレワークを認める場合でも一定程度の出社を求める点あらかじめ周知することが望ましい。
また、こうしたコミュニケーションのための出社のほか、業務の必要性から出社が必要となるケースが想定される。こうしたケースで会社側が出社の命令をする場合があり、従業員は出社命令に従う必要がある旨規定に定めることが必要といえる。
テレワーク対象者の就業時間の管理
*労働時間の管理
テレワークを行う従業員の労働時間の管理は大変重要な課題なので、しっかり検討いただきたい。
テレワーク勤務をした場合には「みなし労働時間」の制度を適用する会社は少なくない。
これは筆者の個人的な見解であるが、テレワーク社員にみなし労働時間制を適用することには慎重になるべきと考える。労働基準法ではみなし労働時間制の適用ができるのは労働時間の把握が困難な場合の例外的な措置という考えがベースにある。現実問題として始業や終業の時刻を把握できない状況が果たしてあるだろうかと考える。
さらに言えば、昨年改正された労働安全衛生法では、始業・終業時刻の管理が使用者に義務付けられている。
その意味ではテレワークの社員であっても始業及び終業時刻の打刻をさせるなど適切な管理を行うとともに残業申請など出社する通常の従業員と同じルールを適用することをお勧めしたい。
*業務報告について
テレワークの社員は実際には出社していないため、上記の通り労働時間の管理は行わなければならないが、現実的には細かな管理は難しいといえる。そこで労働時間での管理から職務遂行内容の管理に主眼を置いた人事管理に移行せざるを得ない。
この場合、テレワーク時間中の業務遂行状況を確認することが重要になる。何をどこまで行ったのかといった業務報告の機会を設け、成果に対する正当な評価を行うべきである。特に包括的なテレワークを認める場合のこの業務遂行状況は重要になるので、その頻度や内容について具体的に検討をした上でルール化することを勧めたい。
*過重労働防止の対策
テレワーク導入初期段階では、多くの使用者が「従業員がサボるのではないか」と心配しているが、実際のところ過重労働となる傾向があるとのデータが発表されており、使用者はむしろこの過重労働対策を行うことが求められる。
そこで過重労働とならない具体的な対策を検討する必要がある。まず初めの一歩として、始業終業の時刻を適正に管理し、深夜の就労や時間外労働の時間などには特に注意を払う必要がある。
また、深夜など一定の時間以降に会社のサーバーへの接続ができないようにするなど、物理的に長時間の就労ができないような方策を取ることも検討に値する。
いずれにしても過重労働にならないように十分な対策を施すとともに、管理職及び管理部門のチェック機能を充実されることが肝要である。
会社の情報管理とPC等の機器の貸与
次に考えるべきことは情報管理である。テレワークを行う場合にはどうしても重要情報の漏洩等の問題が生じる。そこで、あらかじめ次の事項に関して定めておくことが望ましい。
*テレワークを行う場所の限定
そもそもテレワークは自宅のみで認めるのか、どこでも(例えばWi-Fi設備がある自宅外の施設等での)就労も認めるのか、自宅以外で就労する場合に事前の許可や届け出を求めるのか等、ルールを明確にして対象者には周知すべきである。
*PCの貸与等
一方で、テレワーク時に個人のPCなどの使用を認めるのかという課題がある。個人的には対象者には会社のPCを貸与してテレワークではそのPCの使用のみを許可することが望ましいと考える。会社PCを貸与する場合は私用での使用の制限、セキュリティソフトなどの適切な導入をルール化すべきである。
こうしたPCの貸与はテレワークの場面に限った話ではない(出張時の貸与など)ので、多くの会社では就業規則の中や別規程で定めていることが多い。そうした管理に関する規定は改めて確認することをお勧めしたい。
*PC等の保護
一方で、会社PCを貸与する場合に、そのPCの管理責任についても明確にすべきである。
故障するなどPCに問題が生じた場合や、社員の不注意で破損・紛失した場合の責任を明確にすること。これらは最低限ルールを決めるべきである。
また、貸与PCはあくまでも会社の備品であり、その従業員に贈与しているものではないため、必要に応じて返却を求めるなど会社の権利についても明確にすることが望ましい。会社は定期的にPCの返却を求め、その使用状況のチェックをすることも管理体制の一環と考える。
テレワーク対象者の費用負担と手当について
最後に、テレワークを行う社員にとの費用負担や手当について明確にする必要がある。
月に数回、個別に許可を得てテレワークを行う場合にはそれほど気にする必要がないとの考え方もあるが、月の半分以上を出社せずテレワークを行うのであれば会社にとっても従業員本人にとっても費用負担は重要な問題となるのでしっかり整理いただきたい。以下具体的なポイントを挙げる。
*通勤手当について
実際に出社する日数が少ない場合は通勤費は発生しない。従って、その分通勤手当を支給しないという考えは成立する。ただし、通勤手当はそもそも実費弁済の色彩が強いので、従来通りの通勤手当を支給しない場合でも会社の指示により出社した場合には通勤費の実費を支給すべきである。
また、そもそも定期券を購入している場合、慎重な対応が求められる。元々3か月や6か月といった機関の定期券の購入を前提とする場合1か月テレワークだからと言って通勤費の支給を停止することはできれば避けるべきと考える。いずれにしても従業員との丁寧な協議が必要と考える。
*その他費用の負担
テレワークを行う結果、社員にとっては主に自宅で過ごす時間が大幅に増える。これにより生じる水道光熱費や通信費の負担をどうするかが問題となる。
*在宅勤務手当の支給
例えば、月の半分以上出社しない社員に対しては通勤手当を支給せず、出社の度に生じる個別の通勤費を実費で支給し、その分在宅勤務の手当などの形で一部還元することが考えられる。テレワークを行う社員はこの在宅勤務の手当を通信費などに充当する考えが一般的であるが、その金額や支給条件などはあらかじめ明確に定めるべきと考える。
助成金等の活用
前記の通り、テレワーク制度を本格的に適用する場合には一定の費用が生じる。厚生労働省ではテレワークの導入を推奨しており、それにかかる費用については一定の範囲で助成する制度があるので参考にされたい。厚生労働省のテレワークに関する助成金はこちらをクリック
最後に
冒頭ご説明の通り、今回の新型コロナウィルスへの対応で多くの企業でテレワークが緊急的に導入された経緯があると考える。ただ、結果としてテレワークを導入して良かったと考える企業や従業員が多く、今後テレワークがより一層広がることが想定される。
これに伴いテレワークのルールの整備が急務といえる。テレワークをどう活用するかは会社にとって重要な課題となるため、独自に会社の実情に合ったルールを整備することを是非お勧めしたい。
テレワークの適切な導入についてはご要望がありましたら弊所でもサポートさせていただきます。
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