パワハラ防止法で変わる労災認定① ソジハラに注意
令和3年9月
令和2年の国会で改正労働施策推進法(通称「パワハラ防止法」)が成立した。ご承知の通り大企業では2年6月からこのパワハラ防止法が施行されている。一方で、中小企業は令和4年4月1日から施行されそれまでは努力義務となっているが事実上動き出している。また、厚生労働省はパワハラとなる具体的な行為などを示した指針を発表している。
このパワハラ防止法とパワハラ指針が具体的に影響を及ぼす可能性を取り上げたニュース2つに注目する。
その第一弾がSOGIハラスメント(通称ソジハラ)といわれているものを取り上げる。
ソジハラとパワハラ指針
まず、SOGIがそもそも何かについて説明したい。
ソジハラとは何か
SOGIはSexual Orientation(SO)とGender Identity(GI)を組合わせた言葉で、それぞれ性的指向と性自認を指す。
まずは性的指向についてだが、これは単純に「どんな相手が好きなのか」ということ。より一般的である異性が好きという方はhetro sexual、同性が好きという方は homo sexual、異性も同性も両方好きな方はbi sexualと分類される。
この性的指向のうち homo sexualの方がlesbianとgayに分けられ、bi sexualと共に性的少数者とされいわゆるLGBTQのLGBを構成している。押さえておくべきポイントは全ての人間が基本的にはいずれかの性的指向を持っているということであり、LGBの方への侮辱的な言動だけではなく理屈の上ではhetro sexualへの侮辱的言動もSOGIハラの対象となることである。
一方の性自認は、自分自身の性別をどのように認識しているかということであり、これもまた全ての人間が基本的に有しているものと考えられている。この性自認と生まれ持った性別とが一致しない方がTrans Genderであり、また自分の性別がわからない人、決まっていない人をQuestioningとして新たにLGBTQの”T”と”Q”に加えられています。
私はLGBTQの専門家ではないのでこれ以上詳しく知りたい方はご自身で調査してください。
パワハラの行為類型
厚生労働省は以前からパワハラの典型的な行動パターンとして「6つの行為類型」を公表している。ご存じの方も多いと思うが、それらは、「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」である。ここで詳しく説明しないので、詳しく知りたい方はぜひ厚生労働省のHPを参照されたい。
注目すべきは2番目の「精神的な攻撃」である。これに該当するパターンとして厚生労働省は4つの例を示しているが、その1つとして「人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む」と明記している。
ここで注目頂きたいのは、この事例の後段にSOGIハラにあたる文言が加えられている点にある。人格否定や侮辱的な発言は当然のことであるが、ここに『あえて』この文言を加えたことは重要な意味を持つと筆者は考える。
つまり、『ソジハラには十分注意しなさい』というメッセージが明確に込められているといえる。
ソジハラに関連した労災認定と労災申請
さて、9月はSOGIハラに関する2つの報道が注目された。一つ目がSOGIハラによる精神障害がパワハラに該当するとして、労働基準監督署が労災認定していたという報道である。もう一つがでSOGIハラによるパワハラが原因でうつ病を発症したとして労災の申請をした事案である。この2つのニュースの内容を確認したい。
労災認定
この事案は大阪の病院に勤務する看護助手の方がSOGIハラが原因で精神障害を発したとして労災申請をしていたもの。男性として生まれながら性自認が女性だった当該職員だが、既に性別を女性に変更して数年経過後に病院の勤務を開始した。当該職員は精神障害を発症したが、発症する半年ほど前から当該職員を男性のような名前で呼んだり、性別適合手術などについて職員をからかうような発言等が執拗に行われたとされている。
病院側は、そうした言動が精神疾患を発症させた直接的な原因ではないと主張していたが、監督署はこうした言動による心理的負荷が『強』に該当すると判断して労災を認定をしたとされている。
労災認定は2021年2月。
労災申請
こちらの事案はまだ労災を申請した段階で監督署の今後の判断に注目が集まる。本件も性自認に関連した事案。男性として生まれた職員が会社に性自認を伝えた上で部署異動した。その部署異動直後から直属の上司よりハラスメントを受けたという。
具体的には他の社員の前で『彼』と呼ばれたり『女性として見られない』などの侮辱を受けたことが原因でうつ病を発症し、休職したとされている。2021年には別の部署に復職しているが、うつ病を発症したことはSOGIハラによるパワーハラスメントに該当するとして労災の申請を行った。
企業が取るべき対応
労災が認定されることは、業務に関連して病気が発症したと監督署が認定することに他ならないため、労災認定の後に損害賠償請求など民事上の対応が必要になる場合がある。使用者としてはそのようにならない環境の整備が求められる。パワハラ防止法を受けて労働基準監督署でも労災に関する考え方が少しずつ変化しており、従来よりも労災認定されるリスクが高鳴っているといえる。
そこでまずは2つのことを徹底したい。
ハラスメント研修など教育の徹底
パワハラ防止法で企業が講ずべき措置の中に従業員への教育が含まれている。この為、各企業ではハラスメント研修を行う動きが活発化している。筆者も複数の企業から研修の依頼を受けて行っている。まずはそうしたハラスメントに関する注意喚起が重要になる。さらに、そうした研修の機会ではSOGIハラについてもしっかりと押さえておくことが重要になるということである。
今回の2つの事例はいずれも男性として生まれながら自身の性を女性と認識している従業員のケースであった。こうした場合に、相手に対して男性のような呼び名で呼ぶ行為や性自認についてからかうような行為は行為者の想像以上に本人にとっては強く侮辱されたと感じる場合があることを認識しなければならない。そもそも悪意があっての発言は問題外ともいえるが、今回の2つのケースのように、『彼』や『○○君』といった悪意のない何気ない発言であっても相手が傷つけられ、それがSOGIハラと認定される可能性があることに十分に認識しなければならない。この点を踏まえた教育の徹底が重要になる。
アウティングにも注意
先に触れた厚生労働省が示しているパワハラとなる6つの行為類型には「個の侵害」という点でも気を付けなければならない。この「個の侵害」は文字通りプライベートなことに過度に立ち入ることとされているが、これに該当する行為として「アウティング」が挙げられる。
アウティングとは機微な個人情報を本人の承諾を得ずに勝手に暴露することを指すもので、病歴などの健康に関する情報のほかLGBTQなどのいわゆる性的少数者に関する情報も含まれる。性的指向や性自認に関連してLGBTQの個人情報を勝手に同僚に暴露することもパワハラに該当することになるので十分に注意が必要である。
企業内研修を含めたハラスメントに関する相談は遠慮なくご連絡ください。
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