労働問題を考える 『労働時間』-② 36協定について
平成28年7月
前回より労働時間について解説させて頂いております。
今回は法定労働時間を越えて労働させる場合に締結しなければならない労使協定(36協定)について解説させて頂きますが、冒頭で少しだけ前回のおさらいをします。
<おさらい>
前回は労働時間に関して労働基準法32条を紹介し、1日8時間・1週間40時間を『法定労働時間』と呼び、この『法定労働時間』以上労働させてはならないということを確認しました。
この『法定労働時間』を超えて働かせた場合に使用者は違法行為をしたことになり、罰則規定の対象になります。労働時間の問題は、このことが全ての出発点になりますのでご留意ください。
第二回 36協定について
36協定を理解するには、まずは、労働基準法36条を確認しましょう
<労働基準法36条1項>
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。
この条文にある通り、『書面による協定』をして、それを届け出れば、労働基準法32条に定めている『法定労働時間』を超えて労働させることができるということになります。ここでいう『協定』は労働基準法36条に基づくものであるために、この協定のことを、一般的に36協定(サブロク協定)と呼んでいるのです。労使関係において最も重要な協定といっても良いと思います。
<36協定の免罰効果について>
『36協定』を締結し・届出をした場合、労働基準法32条等で禁止されている「法定労働時間を超える労働」をさせたとしても労働基準法違反とはならず、当然のことながら罰則の対象にもなりません。一方で、『36協定』は締結しても民事上の義務(労働者が時間外労働を行う義務)はこれにより発生するものではないとされており、時間外労働をさせるためには就業規則や個別の労働契約等で別途定める必要があります。従って、協定自体は罰則が不適用になるということ以外の効果がありません。これを36協定の免罰効果と言います。もうひとつ重要な点は、繰返しになりますが、協定するだけでは充分ではなく、所轄の労働基準監督署に届出をして初めて効力が発生するということです。
さて、『36協定』が何であるか、どのような効果があるかお分かり頂けたところで、より具体的に、36協定の締結・届出の手続きについて、そして、『法定労働時間を超える時間外労働はどの程度まで許されるのか』について、併せて解説して参ります。
<36協定の手続き等>
『36協定』の締結の仕方やその効果については厚生労働省で作成している「時間外労働の限度に関する基準」というリーフレットがあります。よく纏まっていて、参考になるものですので、ここで紹介します。 36協定に関するリーフレットはこちらをクリックして下さい。
この<36協定の手続き等>では、「延長できる時間」、「労働者代表との協定」、「適用除外事業と業務」、「特別条項」の4点に焦点をあてて解説します。
① 『延長できる時間』法定労働時間を超えることができる労働時間を定める必要があります。
ご案内のリーフレットにも詳細の記載がありますが、法定労働時間を越えて労働させる場合『どの程度(何時間まで)超えて労働させることができるか』という具体的な時間数(『延長時間』という)を労使間で合意することがこの協定の目的です。従って、この協定では、以下(イ)~(ハ)の3つの延長時間(法定労働時間を超えてよい時間数)を合意することが求められています。
(イ)1日について超えてよい時間
(ロ)1日~3ヶ月の任意の期間について、累積して超えてよい時間
(ハ)1年間の累積で超えてよい労働時間。
上記(ロ)と(ハ)に関しての延長時間は「何時間にでも定めても良い」というわけではなく、その期間ごとに上限があります。その上限時間を『限度時間』と言います。(ロ)で一般的に合意されている(任意の)期間は1ヶ月もしくは3ヶ月で、それぞれの『限度時間』は45時間と120時間で、(ハ)1年の『限度時間』は360時間です(1年単位の変更労働時間制を導入した場合の限度時間は短くなりますのでご注意ください)。協定で合意する『延長時間』は原則として、この『限度時間』以内で定める必要があります。
延長時間を合意するにあたって、もうひとつ注意が必要なのは、この36協定で合意した延長時間は『免罰効果』が及ぶ時間ということになります。従って、せっかく協定の手続きを正しく行っても、ここで合意された延長時間を超えて労働させると、結局、労働基準法違反になります。慎重に検討の上で延長時間を定めましょう。
② 『労働者代表との協定』
協定は使用者側と労働者側との協定ですので、労働組合がある場合にはその代表と締結する必要があります。組合との協定が望ましいのですが、労働組合がない事業場も多く、そうした場合は事業場ごとに労働者の過半数代表者を選任し、選任された労働者過半数代表と使用者が協定を締結する必要があります。労働者過半数代表の選任については、これ自体が重要なテーマですので、改めて解説させて頂きたいと思います。重要なのは選任の手続きが正しく行われない場合、協定の効力自体に多大な影響を与える可能性があるので、手続きはしっかり行って頂く必要があります。
③ 『適用除外業種や事業場」
前述の『限度時間』に関して適用除外となる事業や業種があります。適用除外に該当する場合は、前述の(ロ)と(ハ)の延長時間に関し、『限度時間』の制限が適用されず、延長時間を何時間にでも設定することが可能となります。
対象となる事業及び業務は以下(イ)~(二)の4つになります。ただし、(二)については他の3つの対象と異なり、1年間の『限度時間』の適用は受けることになります。また、(二)には、季節的要因により業務量の変動が著しいものと公益上の必要性により集中的な作業が必要なものが指定されることになっております。詳細はご確認ください。
(イ)工作物の建設等の事業
(ロ)自動車の運転業務
(ハ)新技術・新商品の研究開発
(二)厚生労働省労働基準局長が指定する事業または業務
ここで注意が必要なのは『事業』と『業務』という言葉の使い分けがあることです。『事業』の場合はその事業場に就業する従業員がそれぞれ担当している業務にかかわらず、対象となります(管理部門の従業員等も対象になりうる)。その一方、『業務』の場合は、その事業場がどのような事業を行っているかにかかわらず、その『業務』を行っている従業員が対象となるものです。この使い分けには注意が必要です。
④ 特別条項
『36協定』に関してここまで解説してきましたが、実は『36協定』には『特別条項』というものが認められています。この『特別条項』について、ひとことで説明しますと、特別条項を定めた『36協定』(特別条項付き36協定)の場合、『限度時間』の定めに則って合意された延長時間をさらに延長して労働させることが可能になるというものです。今回解説してきました『限度時間』を超えて労働させることが可能になるということです。これは重要なポイントであり、かつ、留意すべき事項が多くあるので、この『特別条項』については次回に詳しく解説したいと思います。
<36協定の届け出>
最後に、手続き面での届け出に関して、少しだけ触れさせて頂きます。前述のリーフレットに届出書のサンプルと記載例があります。こちらを参考に所轄の労働基準監督署に届出をしてください。しつこいようですが、『36協定』の免罰効果はは労働基準監督署で受付されて初めて効力が発生します。受付日以前の時間外労働は違法な時間外労働になる点、充分にご留意ください。
36協定の作成・届出他各種相談についてはお電話・メールでいつでも受け付けております。お気軽に相談ください。
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