労働問題を考える 『労働時間』-③ 36協定の特別条項
平成28年7月
労働時間について解説するシリーズ。今回はその第3弾です。前回は36協定に関して解説しましたが、その最後に36協定の特別条項に触れました。この『特別条項』は重要なテーマとなるため、今回は、この『特別条項』について深く掘り下げたいと思います。尚、前回投稿の36協定についてはこちらクリックして確認ください。
第三回 36協定の特別条項
1.『特別条項』とは、その根拠
前回解説した36協定の限度基準の時間に関しては、平成10年の労働省告示の「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(限度基準)」に詳細が定められております。限度基準3条において、『特別の事情』が生じた場合には、限度基準を超えて労働時間を延長することができるとの定めがあります。まずは、この限度基準第三条1項を確認します。
労使当事者は、時間外労働協定において一定期間についての延長時間を定めるに当たっては、当該一定期間についての延長時間は、別表第1の上欄に掲げる期間の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる限度時間を超えないものとしなければならない。ただし、あらかじめ、限度時間以内の時間の一定期間についての延長時間を定め、かつ、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る。)が生じたときに限り、一定期間についての延長時間を定めた当該一定期間ごとに、労使当事者間において定める手続を経て、限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨及び限度時間を超える時間の労働に係る割増賃金の率を定める場合は、この限りでない。
この通り、基本的には限度基準を超えてはいけないが、特別な事情が発生した場合、一定の定めをしていれば、限度時間を超える時間まで労働時間をさらに延長できるという話です。この一定の定めを『特別条項』と言い、この『特別条項』が定められている36協定を『特別条項付き36協定』と呼びます。
2.特別条項の原則的な考え方
前述の通りですが、厚生労働省はコンメンタール等で以下の考え方を示しています「事業または業務の態様によっては、通常の時間外労働は限度時間以内の時間に収まるが、臨時的に限度時間を越えて時間外労働を行わざるを得ない特別の事情が生じることが予想される場合があるので、事業または業務の運営に配慮するとともに、原則である限度時間の意義が失われることのないようにする趣旨から弾力的措置を設けている」というものです。従って、この特別条項の趣旨を充分踏まえて、この発動を『乱発』しないように心がけなければならない。
さて、それでは、特別条項を定める場合のその手続きが何であるか、どのような効果があるのか、留意すべき点が何であるかについて順を追って解説します。
3.定めるべき事項
それでは『特別条項』付き36協定において、定めるべき事項を順番に解説します。
① 『特別な事情』についての定め
『特別の事情』が具体的に何かを定める必要があります。この『特別な事情』は『臨時的なもの』とされており、さらに、その『臨時的なもの』は、「一時的または突発的に時間外労働を行わせる必要がある場合を指すもの」とされています。これを踏まえて『特別な事情』が具体的に何であるかを協定で合意することが求められております。前回解説した厚生労働省作成のリーフレットに『特別な事情』の具体的な例が示されていますので、これらの例から選ぶのが望ましいでしょう。
② 限度基準を超えることができる回数
前記①での『特別な事情』が『一時的または突発的』ものであることを前提とし、この『特別な事情』が発生する頻度は年の半分を超えることが見込まれないものとされています。逆に年の半分以上見込まれるとなると『一時的または突発的』ではなく、もはや「恒常的」と言われるものになると解されます。このため、年の半分を超えないことを徹底させるために、限度時間を超えて労働時間を延長することができる(特別条項の発動)回数を合意することが求められています。当然ですが、ここでの回数は年の半分までとしなければなりません。
③ 労使当事者間の手続きに関して
『特別条項』を発動する場合の手続きに関して、労使当事者の間であらかじめ合意する必要があります。ここで合意した、所定の手続きを経ることなく、限度時間を超えて労働させた場合は、労働基準法32条(特例の場合は40条)の違反になります。尚、この所定の手続きは「協議」・「通告」といった手続きを指します。
④ 限度基準を超える一定の時間
ここで言う、「限度基準を超える一定の時間」とは、『特別条項』を発動した場合に、「さらに延長できる時間を何時間とするか」ということを合意するものです。限度基準では、延長できる具体的な上限時間が定められていますが、この「限度基準を超える一定の時間」には延長できる時間は定められていません。理論上は何時間でも定めることができますが、協定上その時間を合意しなければなりません。
⑤ 割増賃金の率
一日を超え三ヶ月以内の期間、及び、一年。それぞれについて限度時間を超えて延長した場合の賃金割増率を定めなければなりません。
4.特別条項がどのような効果をもたらすのか
前述「定めるべき事項」の④でも解説したが、『特別条項』を発動した場合の「限度基準を超える一定の時間」に関する定めはありません。さらに、年の半分をまで、『特別条項』が発動できます。従って、労働基準法、及び、限度基準に則った手続きで『特別条項』を正しく定めれば、理論上かなりの長時間労働をさせることが可能になります。その意味では使用者側からみるとこの『特別条項』は非常に都合のよい制度とも言えるが、このため、労働安全衛生等の労働者の健康障害防止という観点では充分な配慮が必要と言えます。
5.留意すべき事項
限度基準の三条には平成21人の改正で「限度時間を超える時間外労働を可能な限り短くするよう努めること」という一文が加えられた。この改正からもわかる通り、特別条項における延長できる時間は注視されています。この「限度時間を超える延長時間」の長い協定をしている事業場については、実際に労働させている時間は別として、理論上長時間労働が可能であるとともに、使用者側にその意図があると見ることができると行政側は解釈する傾向にあります。
特別条項で定める「延長できる時間」が80時間、とりわけ100時間を超える時間で協定している場合、行政に注目されるリスクが高いことを理解したうえで、慎重に定めることが望ましいといえます。
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