裁判例から学ぶー契約社員と正社員で差別できる手当の支給について
2016年9月
本年5月の東京地裁における定年後の再雇用に係る裁判はマスコミ等でも取り上げられ、また、『同一労働・同一賃金』の議論が活発化する中での裁判だったこともあり、その後も大きく話題となり、小職のブログでも取り上げたものである。今回は取り上げる裁判は、正社員と契約社員の間での手当て等の処遇が異なることが違法であると契約社員が訴えを起こしたものである。前回の定年後の再雇用とは違う意味で『同一労働同一賃金』の考え方を問うもので、契約社員と正社員の差別化において注目すべきものであり、解説したい。
<裁判内容>
静岡県にある物流会社に契約社員として有期労働契約を締結していた運転手が、正社員に支給されている手当で、契約社員には支給されない手当があることが不当であるとし、労働契約法20条に違反するとして訴えを起こしたものである。 一審では、不支給とすることを不合理としたの手当が通勤手当のみであったのに対し、大阪高裁では4つの手当について不支給とすることを不合理とした。
不支給が不合理とされた手当(4つの手当)
無事故手当・作業手当・給食手当・通勤手当
不支給とすることに一定の合理性が認められた手当
住宅手当・皆勤手当ほか
<裁判の解釈>
今回の判決のポイントは、正規社員と非正規社員の間での不合理な待遇の違いが禁止されている労働契約法20条に違反するか否か、ということである。また、違反する場合はどれが違反するかということが注目されました。高裁の判断としては、不支給が合理的(不合理とはいえない)としたものについては、まず住宅手当は、転勤する可能性がある正社員に対して支給することに一定の合理性があること。また、皆勤手当については、契約社員の場合は契約更新の条件に出勤状況も考慮されることから、不支給とすることに合理性があることと判断している。
一方で、作業内容が一緒であることや、そもそも正社員か契約社員かに関わらず、当然に無事故を意識して運転することが求められる点から、無事故手当と作業手当の不支給に合理性がないと判断している。また、給食手当てと通勤手当については、人材確保・定着を目的として正社員には支給する、としている使用者側の主張に一定の理解は示したものの、正社員にのみ支給する合理性までは認めなかったことになる。
<企業に求められる対応>
一審と高裁の判断に違いがあることからもわかるが、「正社員には支給するが契約社員等の非正規社員に不支給とすること」の是非に関する統一的な見解はまだ確定的なものがあるとはいえない。こうした中で
① 通勤手当に関する取扱い
契約社員に対しては通勤費の上限を設けるなど、正社員との支給内容に差を設けている事業主は少なくない。現に、私自身が担当している顧問先にもそうした企業はありました。ただ、通勤は正社員・契約社員に関わらず行なうものであり、人材確保・定着の為に差をつけることは違法とされる可能性が昨今高くなってきていることを認識しなければならない。
② 取扱いに差を設ける場合の注意点
実際に手当で差異をもうける場合は、その差異をもうける合理的な理由をあらかじめ慎重に検討した上で、合理的な理由があるか判断することが求められる。
手当の支給に関しては個別の要素が強いので、お気軽にご相談ください。
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