労働問題を考える(過労死認定)ー委託契約における労働者性
平成28年10月
先月、電通に勤めていた女性社員の自殺による労災が認定された。これをきっかけとして、電通社に対して東京労働局・三田労働基準監督署が臨検に入ったことが注目されている。
こうした労災や過労死の認定をきっかけに使用者の責任が改めて問われる場合が少なくない。ここ数ヶ月で起きた事案を2件取り上げたい。
<事案1> 雇用契約がないのに過労死認定された事案
事案の詳細
栃木県で1級建築士の男性が過重な業務により職場で死亡した。この男性は戸田建設と準委託契約に基づき業務を行なっていたため、遺族は戸田建設を相手に損害賠償を求める訴訟を起こした。雇用契約がない状況での労働者性の有無がポイントとなった。宇都宮地裁は9月15日、労働者性を認め戸田建設側に5,140万円の支払いを命じる判決を下した。
判決の決定に至るポイント
裁判長は労働者性を認め、準委託契約に基づくもので労働者性はないとしていた会社側の主張を退ける形となった。判断のポイントとなったのは以下の点と思われる。
① 会社側が指揮監督を行なっていたと判断されること。名刺・作業着を支給していたことや業務場所を拘束していたこともポイントに。
② 成果ではなく労働の対価として報酬を払っていた(不十分な仕事に対し罰則や損害賠償がなかった)
③ 男性は他の業務を行なっておらず、戸田建設の業務のみを行なっていた
業務委託を行なう上で注意すべき点
今回のように、雇用契約が存在しない状況での過労死認定は珍しいケースといえる。今後こうした場合の『労働者性』が問われるケースは増えるものと考えられる。使用者側が、実際には労働者でありながら、直接的な雇用者ではないように『装う』ケースが最近は問題として認識されているからだ。逆にいえば、本当に業務委託という形で業務をアウトソーシングする場合には、労働者性がないことを常に意識しなければならない。具体的に注意すべき点は以下の2つといえる。
① 仕事の進め方や仕事をする場所・時間等について可能な限り具体的な指示を行なわない。指示をすればするほど労働者性が肯定されることになる。
② 報酬は業務の成果に対して支払い、労働時間・勤務日数等の労働対価として支払わない。特に成果に問題があった場合の損害賠償や報酬の減額等に工夫が必要となる。
過重労働の撲滅が年々求められている状況で、アウトソーシングのために行なった業務委託契約で労働者性が認められることは避けなければならない。その為に、改めて『労働者性』をしっかり確認して業務委託を行なって頂きたい。
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