労働問題を考える(過労死認定) 過労死認定に係る臨検
平成28年11月
先月、電通に勤めていた女性社員の自殺による労災が認定された。これをきっかけとして、電通社に対して東京労働局・三田労働基準監督署が臨検に入ったことが注目されている。
こうした労災や過労死の認定をきっかけに使用者の責任が改めて問われる場合が少なくない。ここ数ヶ月で起きた事案を2件取り上げたい。
<事案2> 過労死認定をきっかけとした臨検で管理監督者性が否定された
先日、事案1として過労死認定で労働者性が認められた事案を紹介しました。今回は視点を全く変えて、過労死認定を受けたことによる影響を取り上げてみた。
今回の事案は、労基署が労災認定をした事案だが、労災の認定に伴い事業会社に対する臨検を行なったところ、労災認定を受けていた労働者が管理監督者ではなかったことがさらに問題となっている。
事案の詳細
この事案は、2015年7月に解離性脳動脈瘤による、くも膜下出血で業務中に倒れ、男性従業員が5日後に死亡したことをうけて、死亡の原因が過重労働が原因であるとして遺族が労働基準監督所に労災の申請を行なっていたもの。渋谷労基署は2016年7月に労災の認定を行なった。労災が認定された背景としては、死亡する直前の6ヶ月の平均時間外労働が80時間を越えているかどうか、という厚生労働省による労災の認定基準に対し、100時間を越えていた事実があり、直前1年の平均でみても100時間を越えていた事実が明らかになった。ここで説明する労災認定の基準については改めて解説したいと考えるが、この時間外労働の水準だけで判断すると、労災認定される可能性が高い状況だったといえる。
考察
今回ポイントとして取り上げたいのが、こうした労災認定をきっかけとした、労働基準監督署による臨検という問題である。労災認定がなされたら、監督署の臨検を受ける可能性が一気に高まることは言うまでもない。現在報道されている電通事件でも東京労働局と三田労働基準監督署が合同で臨検に入った。臨検に入る際には、特に労働時間の管理と賃金の未払いが重点的に調べられるといわれている。特定の従業員が管理監督者であるかどうかという問題は、労働時間の管理と賃金の未払いという2つの側面で『必ず』と言っていい程調べられると考えるべきである。問題となっている電通事件でも、この管理監督者性にメスが入るという。
管理監督者とは
労働基準法41条第2項による『管理監督者』である場合、時間外労働や休日労働に対する割増賃金を支払う必要はない。ただ、会社側が『管理監督者』と考えている従業員でも、『管理監督者ではないです』と労働基準監督署等で管理監督者性が否定された場合、支払っていなかった時間外労働や休日労働に対する賃金を支払わなければならなくなります。賃金債権の消滅時効は2年ですので、最大過去2年分の賃金を支払わなければならなくなり、大きな負担となる場合がある。
最後に、従業員の管理監督者性については、深い話なので、改めて解説するとしたいが、労災認定がきっかけで管理監督者性が否定されることがないように充分な注意が必要といえます。
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