労災認定基準についてー② 「精神疾患」
平成28年12月
前回は「脳・心臓疾患」に係る過労死の労災認定基準について確認いたしましたが、今回は「精神疾患」にかかる認定基準について確認したいと思います。前回、「精神疾患の労災認定は少々複雑です」という話をしましたが、そこも含めた「脳・心臓疾患」との違いを最初に確認します。
<業務以外の心的負荷>
精神疾患を考えるにあたって、私生活においても心的負荷が掛かることを考慮しなければなりません。自分自身の離婚や別居、病気やケガ、定年退職といった「自分の出来事」。親族や家族の死亡、子供の学校や親の介護といった「家族関係」を始め「友人関係」、「金銭関係」や「住環境変化」、といった、様々なプライベートな事柄によって精神的なプレッシャーやストレスを受けることがあります。こうしたものをまとめて『業務以外の心的負荷』と呼んでおります。
<固体要因>
また、同じ状況であっても「人によって」そのストレスの受け止め方、適応力、精神に与える影響が異なります。過去の病歴、アルコール依存度といった個々の人の状況が認定に影響します。逆の言い方ですが、「他の労働者だったらどう受け止めていたか」、「その人固有の問題ではなく、他の一般的な労働者でも発症していたか」、「当該労働者だから発症したのか」といった要因分析をしますが、これを『固体要因』といいます。
『精神疾患』の労災認定にあたっては、業務の内容や量、業務の環境という業務関連の要因のみで労災認定せず、上記の『業務以外の心的負荷』と『固体要因』を考慮して認定します。この点が「脳・心臓疾患」における認定と大きく異なります。
精神疾患の労災認定基準について
精神疾患の認定基準についても厚生労働省のパンフレットがあります。「脳・心臓疾患」の認定同様、詳細はこちらのパンフレットをご確認ください。厚生労働省のパンフレットはこちらから
この投稿では「精神疾患」による過労死の認定プロセス、心理的負荷とはどういうことなのかという点について簡単に解説します。
1.精神疾患の労災認定プロセス
① 精神障害を発病していること
② 発病前おおむね6ヶ月の間で業務による強い心理的負荷が認められること
③ 『業務以外の心理的負荷』や『固体要因』によって発病したとは認められないこと
精神疾患の労災認定は上記3つの要件を満たしていれば労災認定される可能性が高いと考えられています。
2.『業務による強い心理的負荷』について
前記、労災認定プロセスの②での『業務による強い心理的負荷』が認められるか否かということですが、この 心理的負荷については「総合評価」を行います。総合評価は心理負荷の程度を「強」・「中」・「弱」の3段階に分けて行ないますが、心理負荷の程度が『強』とされた場合に『業務による強い心理的負荷』があったと認められることになります。
『特別な出来事』に該当するものがあれば、その『特別な出来事』があったことをもって、総合評価が「強」となり、『特別な出来事』がない場合、起こった出来事を個別具体的に評価し、その評価結果を積み上げることとなります。まずは『特別な出来事』がどのようなものであるかを見てみましょう。
3.『特別な出来事』
前述の通り、『特別な出来事』があったと見られた場合は、それだけで『業務による強い心理的負荷』があったと判定され、労災認定される可能性が高まります。『特別な出来事』は、次に説明する「具体的出来事」で論じられる個別の項目の中で、特に際立って心理的負荷が強いとされるものです。『特別な出来事』は大きく「心理的負荷が極度のもの」と「極度の長時間労働」の2種類に分かれます。それぞれの具体例を以下に示します。
<心理的負荷が極度のもの>
・生死に関わる、極度の苦痛を伴う、または永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気や怪我をした。
・業務に関連し、他人を死亡させ、または生死に関わる重大なケガを負わせた。
・強姦や、本人の意思を抑圧して行なわれたわいせつ行為などのセクシャルハラスメントを受けた。
・上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの。
<極度の長時間労働>
発症直前の1ヵ月におおむね160時間を超えるような、或いはこれと同程度の時間外労働を行なった。(同程度とは例えば3週間で120時間等)
4.特別な出来事以外(「具体的な出来事」)
『特別な出来事』に該当する出来事がない場合は、起こった具体的な出来事をそれぞれ評価することになります。厚労省のパンフレットにもありますが、6つの具体的な類型・36の具体的な出来事に分類されています。具体例は分類表に示されていますが、それぞれの出来事の心理負荷程度を「強」「中」「弱」に分類し評価します。多くの項目では心理的負担の度合いが「中」か「弱」とされていますが、それぞれが起こった状況や程度によって心理負荷が評価されますので、「強」と評価される場合もあります。また、起こった出来事が複数あれば、それを合計して総合評価することになります。例えば、心理負担が「中」程度の出来事が複数あれば、総合評価が「強」になる場合があります。以上のプロセスを経て『業務による強い心理的負荷』があったかどうか認定されます。
5.最後に。労災認定は総合評価
冒頭でも説明しましたが、仮に、『業務による強い心理的負荷』があったと認められた場合でも、業務以外での心理的負荷が強く、それが原因で発症したと考えられる場合には労災認定されない場合があります。また、同様に固体要因により、「他の同種の労働者なら発症しなかったと」考えられる場合も労災認定されない場合があります。『精神疾患』の認定はそれだけ複雑な要素の総合判断である点にご留意頂きたいと思います。
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