休職期間満了で退職した社員が労災認定されたら
平成28年11月
11月24日に藤沢労働基準監督署が労災認定した事件をマスコミが取り上げている。本件は休職期間の満了とそれに伴う退職(解雇)が問題となった事案であり。これを踏まえた休職期間の満了と解雇について検討したい。
<事案概要>
本件は三菱電機に努める男性社員が2014年1月ごろから業務量が増えたことで、月に100時間を超える時間外労働、最大の月では160時間を超える時間外労働を行なうに至った。結果として、この男性社員は2014年4月に「適応障害」を発症し、6月より休職した。会社は休職から2年経過後の2016年6月に、会社の規定による休職期間満了により解雇した。というもの。
様々報道されている、過重労働と時間外労働時間数の申告(過少申告)の問題について、ここでは取り上げない。ここで取り上げたいのは休職期間満了による雇用契約の解除である。
<休職期間の満了に関する会社の規定>
多くの企業の就業規則に休職期間満了時の退職に関する定めがなされています。一つには、仮に休職している期間が無給であったとしても社会保険の負担等が発生し続けること、もう一つには、あまりにも長期間に亘る休職は会社の運営上よくないと考えられているから一般的に一定以上の休職期間を経ても復職できない場合は退職させるという定めがあります。
社会保険料については休職期間中も労働者であり続け、基本給が見直されない限り、保険料計算の基礎となる標準報酬月額は変わりません。会社側は保険料の少なくとも半分を負担することになっていますし、本人分に関しても会社が「立替える」ことになりますが、復職できない場合には立替え分を回収できない場合があります。このため、たとえ無給という場合でも、いつまでも休職を継続させるというわけには行きません。
こうしたことから、一定期間休職して、その休職期間が満了した時点で復職できない場合には「自然退職」という形で雇用契約を終了させる定めを就業規則等で行なっている会社が多くあります。
今回の三菱電気社の就業規則を拝見していないので詳細は分かりませんが、休職開始から2年後に退職というのは期間としては短くないといえます。従って、規則としては全く問題のない、一般的なものと考えます。
<解雇の有効性(解雇が有効か無効か)について>
解雇の有効性が争われるときは、「労働契約法」において争われるのが一般的です。実は、労働基準法では、「解雇してよいかどうか」についてほとんど触れていません。解雇に関しては労働契約法の16条で「客観的に合理的な理由があって、社会通念上相当でなければ、その解雇は無効になります」と定めています。解雇事案のほとんどは、この「客観的で合理的」な理由があったか、「社会通念上相当」だったのかが争われているものです。解雇に関しては以前小職の書き込みで詳しく説明しています。ご覧になりたい方はこちらをクリックしてください。
<労災認定が意味するもの>
さて、労働基準法で解雇についての定めはほとんどないと説明しましたが、例外的に定められているのが労働基準法19条「解雇の制限」です。業務上の負傷・疾病による休業、産前産後の休業、この2つの理由で休業している場合、その休業期間と休業明け30日は解雇してはいけない。ということが定められています。今回の問題はこの労働基準法19条で定めている解雇制限に抵触する可能性が高いといえます。労働基準監督署が「労災認定」したということは、監督署がこれは「業務上の災害ですよ」と認めていることになります。今回のケースでは「三菱電機の男性社員が発症した適応障害は会社の過重労働が原因ですよ」と言う、いわばお墨付きを与えたことになります。従って、この解雇が無効かどうか争う余地はあまりないというのが個人的な印象です。そうなると、労働者としての地位確認、職場復帰できる場合は職場に復帰させることになると思われます。また、労災認定されている以上は損害賠償請求がされることも想定しなければならず、会社にとっては大きな負担を強いられることになります。
<会社側の対応>
休職期間の満了に伴う退職の規定は基本的に私傷病によるものを前提としております。労働基準法19条の解雇制限にある通り、業務上の負傷・疾病時の場合には解雇できないことになります。過去の判例等でも、私傷病による休職期間満了の場合はその解雇(雇用契約の終了)が認められた事案は多く見られます。その一方で、業務災害による休職期間満了が争われた事案で、そもそも業務災害であったかどうかの観点で解雇が認められた場合の除き(業務災害ではなかったと判断されて解雇が認められた)、解雇であっても雇用契約の終了であっても認められているケースはほとんど無いと言えます。従って言うまでもありませんが、業務上の傷病なのか私傷病なのかの見極めが大変重要と言うことになります。万が一、「会社側としては、私傷病による休職⇒期間満了による退職(解雇)」と考えていたケースでも、「後になって私傷病ではなく業務災害でした」ということになれば今回の事案のように大きな問題となります。
昨今、精神疾患による労災事案が多くなっております。精神疾患については一般的な「病気」「ケガ」と違って目には見えにくく、発症しているかどうか、また、その発症原因が何であるかが非常に分かりにくいです。精神疾患の社員に関しては休職期間満了、それに伴う自然退職には充分な注意が必要といえます。そう考えると、「就業規則に定めがあるから」という理由で安心せず、単に事務的に期間満了に伴う自然退職とすることは避けるべきでしょう。休職期間満了であっても双方充分な話し合いを行い、業務継続が難しい場合はしっかりとした合意形成を図り、いわゆる合意退職の道を探るべきではないかと考えます。
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