「過労死ゼロ」緊急対策を受けてー企業名公表制度
平成29年1月
本年の最初の投稿は、年末発表された『「過労死等ゼロ」緊急対策の取りまとめについて』に関して取り上げたいと思います。
①当該緊急対策について
厚生労働大臣を本部長とする「長時間労働削減推進本部」は昨年立ち上げ、10月に1回目の会合が行なわれました。この会合の第4回が12月26日に開催され、そこで取りまとめられたのが『過労死等ゼロ』の緊急対策です。この内容は主要マスコミ各紙でも、取り上げられ注目を集めました。
発表されている緊急対策の具体的な内容はこちらから確認下さい
②緊急対策案の位置づけ
今回の緊急対策は現時点では「案」の位置づけで、発表資料にも「29年から導入する」とされていますが、現時点では正式に各監督署等の現場に通知されているものではありません。最終的には、今回の「案」に沿ったものとになると予想されますが、具体的な内容や、いつから導入されるのかといった詳細については、正式な発表等を待つ必要があります。発表資料には「現状」と「新たな取組」の比較対象が行われておりますので、現時点では、現状の制度を理解する一方で、どの様な変更がなされる可能性が高いのかということを意識されるのが良いと思われます。
③現在の企業名公表制度の内容確認
上記の通り、今回発表されたものはあくまでも「案」の一つです。特に注目を集めているのは「企業名公表制度の強化」という点ですが、これに関しては多くの誤解やわかりにくい部分があると思いますので、まずは、現状の公表制度がどの様になっているかポイントを整理します。現在の公表制度は平成27年5月より実施されて、以下のような企業が対象になるとされています。
「社会的に影響力の大きい企業」が「相当数の労働者」に対し「違法な長時間労働」を「一定期間に複数の事業場で繰り返されている」企業が対象となるということです。
少し具体的な話をすれば、「相当数の労働者」とは1事業場で10人以上または4分の1以上の労働者、「複数の事業場で繰り返されている」とは概ね1年程度の期間で3箇所以上とされています。結果としては、あまり多くの企業が対象とならず、これまで全国でも千葉労働局で1件の実績があるのみです。
④『違法な長時間労働』とは
重要なポイントは『違法な』長時間労働がある場合に問題になるということです。適切な表現ではありませんが、逆に言えば、(将来、法律がどの様に改正されるかは予測できませんが)『違法』でなければ、仮に時間外労働が80時間を超えていても、100時間を超えていても企業名公表とはならないという事になります。
では、『違法な』長時間労働とは何か?ということになります。基本的には、労働基準法32条、35条及び37条における、法定労働時間・休日労働・割増賃金に関して違反があるかということになります。また、36条(36協定)における協定違反があるかどうかも問われることになります。
具体的には、正しい手続に則って36協定を締結し、その協定の範囲内で運用されていて、割増賃金も正しく支払われていれば、仮に長時間労働となっていても現時点では「『違法な』長時間労働」には該当しないということになります。
なお、『長時間労働』の目安としては、法定時間外労働の時間と休日労働の時間の合計が100時間を超えるもとされていますが、今回の緊急対策では、この100時間を80時間に引き下げる案とされています。
⑤企業側が留意すべきこと
長時間労働そのものの抑制は非常に重要ですし、「働き方改革」という観点でも今後ますますの注目を集めることは間違いありません。その意味で、労働時間の削減には努める必要があるのは言うまでもありませんが、まずその第一歩として、『違法な』長時間労働を削減しようという大きな政府の方針があると考えられます。
皆様においては、何が『違法』で、何が『違法でない』のかを正しく理解し、「知らないうちに『違法』な長時間労働をさせていないことをしっかり確認しつつ、一方で、会社に適した変形労働時間制やみなし労働時間制といった制度等を有効活用することで効率的な事業運営に努めて頂きたいと思います。
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