企業名公表の新基準について
平成29年2月
前回に続いて、過労死等ゼロの緊急対策で発表された内容についてふれたいと思います、今回は「企業名公表制度」の強化についてふれます。厚生労働省発表の資料を読んでも、やや複雑で少し分かりにくい部分があるので、可能な限り分かりやすく解説します。まずは厚生労働省の報道発表を確認しましょう。こちらをクリックしてください。
1.対象になりうる企業とは?
最初に確認すべき事項として、『どのような企業が対象となりうるのか?』ということですが、大きく2つの基準があります。一つは『社会的に影響力の大きい企業』で、もう一つが『違法な長時間労働を繰返し行なっている企業』ということになります。後段については次に説明するとして、前段について報道発表では「中小企業に該当しない企業」をしています。(ここで言う「中小企業」の具体的な定義はなされていませんが、60時間以上の残業時間に対する割り増し(50%)の適用の免除となっている「中小企業」と同じと考えてよいと思われます。)つまり、中小企業は企業名公表の対象外ということになります。
2.対象となる「違法な長時間労働を繰返し行なっている」企業とは?
次に、『違法な長時間労働を繰返し行なっている』かどうかの判定ですが、その判定プロセスは2つあるようです。ひとつは労働基準監督署が一度指導を行なうプロセスと、もうひとつは労働基準監督署のプロセスを経ずに都道府県労働局長が指導を行ない企業名を公表するプロセスです。それぞれを『署長ルート』と『局長ルート』と勝手に呼ぶことにして解説します。
(1)『署長ルート』
次のAからCまでの3種類の違反がここでいう「違法な長時間労働」ということになるのですが、この3種類の違反がおおよそ1年間で「2つ以上の異なる事業場」で認められた場合に『署長ルート』に該当する企業ということになります。(ここで「2つ以上の異なる事業場」とありますが、本店で2回あった場合も「2つ以上の異なる事業場」含まれることとされています)
違反A 同一の事業場で10人以上またはその事業場の四分の一以上の労働者で、月間80時間以上の時間外休日労働があり、かつ、労働時間関係の法令違反で是正勧告を受けている。
違反B 過労死に関する労災支給決定を受けた事業所で、月間80時間以上の時間外休日労働があり、かつ、労働時間関係の法令違反で是正勧告か指導を受けている。
違反C 上記のA・Bと同程度に重大・悪質な労働関係法令で違反があること。
『署長ルート』の対象とされた企業は、所轄の労働基準監督署長から『全社的な早期是正・改善に向けた取組みの実施を求める指導書』が交付され、その後、本社と支社に対して、『全社的立入り調査』が行われ是正・改善状況が確認されることになります。この段階で企業名が公表されるわけではありません。
要するに、『署長ルート』に該当した企業には「もう1回」改善するチャンスが与えられるということになります。
(2)『局長ルート』
『局長ルート』は『署長ルート』と同様の項目で判定されますが、違反の度合いが深刻な場合に『署長ルート』を経ずに直接『局長ルート』の対象とされます。『署長ルート』の基準との違いは以下の通りです。
違反Aにおいては時間外休日労働時間が80時間ではなく100時間を超えた場合が対象となります。
違反Bでは「指導を受けている」場合が除外され、是正勧告のみ対象とされます。
また、『局長ルート』でも「1年以内に異なる2つの事業場」という基準は変わりませんが、『局長ルート』では、2つの違反のうち1つが違反Bによるものであることが要件となります。
3.局長による指導と企業名公表
『署長ルート』で対象となった企業で是正・改善状況を確認した結果、なおも違反ありと判定された場合は、直ちに局長による指導と企業名の公表という流れになります。一方、『局長ルート』の場合は『署長ルート』にあった、是正・改善状況の確認をするまでもなく、局長による指導と企業名の公表が行われることになります。言い換えれば『署長ルート』の場合は署長指導の後に是正・改善のチャンスが与えられるが、『局長ルート』の場合はそのチャンスはなく、企業名公表がされることになります。
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