「減給処分」はどこまでできるのか?
平成29年2月
先日、某コンビニ大手のアルバイトに対して風邪で休んだことに対し、「『交代要員を探さずに休んだ』ペナルティーとしてアルバイト代の一部を支払わなかったこと」が報道され、一部で話題を呼んだ。この事案そのものについては労働契約やその状況に至る背景が分からないので、具体的コメントは差し控えたいが、そもそもこの『ペナルティー』というものについて今回は取り上げたいと思います。
1.欠勤控除とペナルティーの違い
まずは、欠勤控除とペナルティーの違いについて整理したい。『欠勤控除』とは働いていない分は支払わないということで、遅刻をしたり、仕事を休んだりした場合に、それに見合う賃金を支払わないということです。パートやアルバイトの様にそもそも賃金が時給で支払われている場合は、
「実際に働いた時間」× 時給 = 賃金
という計算で給料が支払われるので分かりやすいです。これに対して正社員等の場合はお給料が決められた『月給』で支払われていることが多く、その場合には、毎月支払われている月給から『働いていない分の賃金を差し引く』ということになります。どうしても「差し引く」ということになると「ペナルティーを受けた」印象が強くなるのですが、これは単に『働いていない分の賃金を支払わない』ので、ペナルティーではありません。欠勤控除とペナルティは別物です。
例えば、会社に10分遅刻したときに30分に相当する賃金を減額するといった場合は、遅刻の10分は欠勤控除、残りの20分がペナルティーにあたります。今回のセブンイレブンの件でいえば、「風邪で休んだ」分の賃金は欠勤控除ですが、「代わりのアルバイトを探せなかった」のは欠勤控除ではなく純粋にペナルティーといえます。
2.ペナルティーとはどのような場合に出来るのか
『ペナルティ』とは懲戒処分の一環で、一般的には『減給』と呼ばれる処分にあたります。懲戒処分については就業規則に記載が義務付けられている事項ですので、まずは就業規則上に懲戒処分の規程があり、その中に『減給』についての定めがなければなりません。就業規則にこうした記載がなければ減給の処分は出来ません。
具体的なイメージですが、就業規則に懲戒規程として「こういうことをしたら懲戒処分にしますよ」、「懲戒処分はこういう内容ですよ」ということを明示する必要があります。
ここで、就業規則にどういう懲戒を定めても良いのか?ということになりますが、基本的には公序良俗に反しなければ、ある程度何を定めても良いといえるでしょう。常識の範囲で考えて、「こんなことで懲戒処分するんですか」といった事に対し懲戒処分を行ったり、その事象に対し処分が過度に厳しい場合などは「公序良俗」に反しているとして、認められないといえます。今回のケースのように、「休む場合の代わりに出られる人を探す」というのは基本的には使用者側の責任で行うもので、休む労働者にその義務を課し、出来ない場合には『減給』処分とするというのは認められないでしょう。
3.『減給』処分はいくらまで課すことができるのか
これについては労働基準法(91条)にその具体的な定めがあります。基本的には1回の事案で平均賃金1日分の半分までとなっています。また、減給すべき事案が複数あった場合には「減給」の額は積み上げられますが、一回の賃金支払日で実際の給与支払いで減給できる総額は、支払われる賃金の10分の1までとなっております。
言いかえれば、これ以上の「減給処分」は労働基準法上違法なものとなります。従って、「減給処分」で給料から差し引くことのできる金額は比較的小さいものといえます。
4.『出勤停止』処分
会社にとってより重大な違反行為をした従業員に対して、『減給』での処分に金額上の限界があるために、より重い懲戒処分を課すことも検討しなければならないとき、『減給』処分の次に重い処分とされているのが『出勤停止』処分です。出勤停止処分は懲戒の一環として出勤を停止するもので、当然出勤停止期間中は従業員からの労務の提供がないので無給で問題ありません。減給と異なり、出勤停止⇒労務提供なし⇒賃金なし
という構図なので、『減給処分』で法律上定められている、1回当たり平均賃金の半分や1ヶ月の賃金支払いの10分の1という定めの対象にはなりません。「働いていない分の賃金を支払わない」ということになるので、「働いたのに賃金が減額されている」という『減給』の処分の金額の上限にかかる考え方は適用されません。
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