労災認定時の「労働時間」について
平成29年5月
今回は今月話題となったスーパーのいなげやでの労災認定について取り上げたい。本件は、2014年にスーパー「いなげや」で働く男性社員が脳梗塞で死亡した件の労災認定をめぐるもので、さいたま労基署は過労死と認定したことが話題となったものです。
本件のポイントは、公式に記録されている労働時間が厚生労働省が発表している「脳・心臓疾患の労災認定」に記載されている基準に満たないの状況で労災が認定されたというところにあります。
厚生労働省は、脳・心臓の疾患による死亡が過労死に当たるかどうかの認定を行うにあたり、業務の起因性を判断する材料として 発生直前1ヶ月で時間外労働100時間、あるいは、直前の2~6ヶ月で平均して80時間を超えている場合に発症との関連性が強いとしています。「脳・心臓疾患労災認定」を詳しく確認したい方はこちらから厚生労働省のHPへお願いします。
これが、昨今よく耳にする「1ヶ月の時間外労働80時間超・100時間超」といった議論の根本をなしている「労災認定基準です」。今回の件で、報道によれば、お亡くなりになった男性社員の時間外労働時間は最長で96時間、平均しても76時間程と、決して少なくはないものの、いずれも厚生労働省が示した基準を下回っていたとのことでありました。
では、今回はなぜ労災認定されたのか。要因は2つあると言えます。
① 不規則なシフト
厚労省の労災認定基準にも労働時間以外の負荷要因として不規則な勤務をあげられています。当該男性労働者の勤務が不規則であったことが加算要因となっている。従って、労災認定の基準を下回ってはいたものの、「ギリギリ」で下回っていたため、この加算要因を考慮して労災認定されたという点。
② サービス残業
もう一つの要因で、今回特に注目したいのは「サービス残業」といえます。さいたま労基署はタイムカード等のデータ等で管理されている『会社が認めた』時間以外にも時間外労働があったとしているとされています。正確な時間外労働時間としては確認できないにもかかわらず、会社が認めている時間以上の時間外労働があったものとして労基署は労災認定をしたことになります。
<新たなガイドラインと労働時間管理>
昨年の電通事件以降、労働時間の管理については大いに注目されています。「『過労死等ゼロ』緊急対策」の一環として、本年1月20日に「新たなガイドライン」を厚生労働省が発表しております。この「新たなガイドライン」は、これまでの「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(いわゆる46通達)において労働時間の管理の仕方について定めていた基準に変わるもので、「何を労働時間とするのか」についてより厳格な管理を求めたものといえます。小職も2月に本件について投稿しておりますので、詳細はこちらをご覧下さい。
このガイドラインの主旨は、「労働者が『自習していました』と自己申告した、実質的には労働時間に該当する『記録に残らない残業時間』もしっかりと労働時間として把握しなければなりません」というものでこれまでよりも一歩踏み込んだものといえます。結果として、出勤簿やタイムカードの時間だけではなく、パソコンのログ記録や会社の建物への入出館記録等「他の手段」で労働時間が把握できるならちっかり管理して下さいということになります。
<会社は何を注意しなければならないのか>
今回のように、実際に会社が管理・把握している時間のほかに従業員が事業所にいて業務等を行っている場合は、会社の残業命令によるものでなかった場合であっても、労働時間と認定される可能性が高まっているといえます。昔であれば、「従業員が勝手に会社に残っていた」ということが通用したものであっても、今後はより厳格に労働時間性が問われることになります。
会社が実際に残業をさせた上で、「時間外労働としてつけないように」という指示を従業員に対して出すことはもちろん問題です。一方で、会社がより注意しなければならないのが、会社が許可していない状況で従業員が本当に「勝手に残業した」場合です。こうしたことを防ぐためには時間外労働の許可について就業規則でより厳格に定めたり、実際の運用面でも「黙示の許可」と捉えられないようにより一段高い注意が必要になるといえます。
具体的な就業規則への定め方や会社のルール作り、従業員への周知徹底は当事務所までお気軽にご相談下さい。
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