裁判例から学ぶー仮眠時間は休憩時間か労働時間か?
平成29年5月
<今回の事案概要>
警備会社に勤務する警備員が、勤務時間中の「仮眠時間」が労働時間になるのか「休憩時間」になるのかを争った裁判が今週千葉地裁で行われた。会社側からみると「労働時間」となれば、当然賃金の支払いが発生する。その一方で、「労働時間」ではなく、「休憩時間」であれば賃金の支払いは発生しない。会社は、この「仮眠時間」は当然休憩時間に該当すると思っており、賃金は支払っておらず、これに対し、従業員が支払いを求めたものである。結果は『仮眠時間は労働時間にあたる』として会社側に177万円の支払いを命じたものであった。
今回訴えを起こした従業員によれば、他にも同様の従業員がいるとしていることから、他の従業員にも波及した場合には会社側にとっては多額の支払義務が発生する恐れがある事案といえる。
<リーディングケースから学ぶ>
今回のように「仮眠時間」が「労働時間」になるか否かが争われるケースは決して少なくない。「労働時間」とされてしまうと、賃金支払義務が発生するので、「労働時間」に該当するのかしないのか、しっかりと理解した上で労務管理を行なう必要がある。今回の裁判でも触れられている、2014年の最高裁で争われた大星ビル管理事件がリーディングケースとなっており、ここでもこれを参照します。
・大星ビル管理事件、判断のポイント
実作業に従事していない時間(これを『不活動仮眠時間』という)が労働時間に該当するか否かは、この不活動睡眠時間において使用者の指揮命令かにおかれていたかどうか客観的にきまる。不活動睡眠時間に実作業をしていなかったというだけでは使用者の指揮命令から離脱しているということは出来ず、労働者が労働から離れることを保証されていて初めて指揮命令下におかれていない。といういことになります。
・わかりやすくいうとこういうことです
「仮に、『仮眠時間ですよ』という取り決めをしていたとしても、仮眠室で待機させていたり、「警報が鳴ったり電話があったら、対応でして下さい」ということにしていると、「何かあったら」対応しなければならないことになります。この状況では、結果として何もなかったとしても、労働時間になります」ということです。さらに、最高裁は一歩踏み込んで、「実作業への従事(何かあったときに対応すること)が皆無に等しい場合でなければ、『仮眠時間』とよんでいても「労働時間に」になりますよ」としています。
要は、『仮眠時間』と呼んでいても、状況次第では対応(業務をする)しなければならないのが前提であれば、その『仮眠時間』が全体として仕事ということになってしまいます。仮に、結果として対応する事柄がおきなかったとしても、最初からほぼ発生しないとわかっている場合でない限り「労働時間」になります。
<今回の裁判に当てはめる>
現今回の裁判では「仮眠時間内は外出が認められず、警備体制の継続を求めていた」ということであった。上記の通りに考えれば、現在の司法判断では、明らかに「労働時間」とされてしまいます。
<会社はどうすればよいのか>
現在の司法の考えを踏まえると、仮に、「仮眠時間」という時間を設けたとしても、仮眠室などの一定の場所で待機することを求めた場合には「労働時間」となって賃金の支払義務が発生する可能性が高いといえます。「労働時間」となった場合は、その従業員のみならず、同様に働く労働者に対して、当該時間分の賃金を支払わなければならず、企業にとっては大きな負担となるリスクがあります。
そのリスクを回避するためには、「仮眠時間」も労働時間となるリスクを前提に労務管理、労働者の報酬等を考えるべきと考えます。例えば、「仮眠時間」は、「何もなければ仮眠が許される」労働時間のため、他の労働時間よりも業務量が軽いことから、「仮眠時間」中の時間給は別途定める、或いは、全体の給与制度を見直すことで実態に即した報酬を支払うなど、均衡を図ることの法が実態の即しているとも考えられます。どちらにしても、リスクを踏まえた上での対応が必要になるということです。
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