裁判例から学ぶー無期雇用と有期雇用との間でどのような賃金・手当格差が許されるのか
平成29年9月
今回は、先週末の東京地裁で行なわれた正社員との格差に関する裁判について取り上げる。現時点ではまだ東京地裁の判決のため、将来的に高裁・最高裁で争われる可能性がある。今後の展開で判決内容が変わる可能性はあるものの、来年に有期雇用労働者の無期転換が本格化を控える等、有期労働契約で雇用する従業員の処遇に関する重要なテーマと考え、取り上げました。
1.裁判の内容
今回は日本郵便の契約社員の方が数名、「同じ仕事をしているのに手当などに格差がある」として1500万円の支払いを求めた裁判でした。東京地裁の判断は以下の通りでした。
(1) 一部の手当(年末年始勤務手当・住居手当)については格差を設けることは違法。
(2) 夏季冬期休暇、病気休暇がないことは違法。
これを受けて合計で92万円の支払いを命じた。
原告側の当初請求額から見ると大幅に減額されているように見えるが、一方で日本郵便のように非正規労働者が20万人に迫る企業にとっては、全ての非正規労働者に対する支払いが求められると莫大な金額に膨れる恐れがある。
2.労働契約法20条
今回の裁判は労働契約法20条に違反するかどうかが争点といえます。労働契約法は2013年の改正時に有期雇用契約の社員と無期雇用契約の社員との間での差別的な取り扱いを禁じる第20条を追加しました。以降、この格差の有効性を争う裁判が行なわれております。昨年も同じテーマで後にリーディングケースとされている裁判(ハマキョウレックス事件)について取り上げました。
この裁判に関する投稿はこちらから。
労働契約法20条は有期雇用の従業員が無期雇用の従業員と比較して不当な格差をつけられているか否かで判断されるもので、格差をつけること自体否定されているものではありません。従って、その格差をつけることに合理的な理由があれば違法とはなりません。今回の日本郵便のケースでも原告が主張する金額から大幅に減額されている点からも、合理的な格差は一定程度認められた考えられます。
3.使用者が気をつけるべきこと
今回の裁判において、日本郵便側は「一定程度の労働条件の格差は裁量の範囲」と訴えていたとのことでした。実際に多くの企業が無期雇用契約で雇用する正社員と有期雇用契約で雇用する社員との間で様々な格差をつけているのが実態といえます。
注意しなければならないのは、今回も格差をつけることが認められた手当とそうでない手当がありましたが、ハマキョウレックス事件の判断と個々の項目では一致していません。このことからも、認められる格差と認められない格差について少なくても現時点では、明確な基準がなく、ケースバイケースといわざるを得ません。
そこで、「どんな格差をつけてもよい」というわけではないことを認識しなければなりません。そこには必ず合理的な理由(なぜ無期雇用契約の従業員にはこの手当を支給し、何故有期雇用の従業員には支給しないのか)が必要になります。
具体的な手当てについては会社ごとにその支給要件や支給の趣旨・背景が異なるので一概にはいえませんが、実際に行なう業務に伴って発生する手当については差をつけてはいけない。一方で、無期雇用契約の社員について、長期的な雇用確保の観点等で必要なものは認められる傾向にあるといえます。
4.使用者として必要な対応
使用者としては、手当をはじめとする賃金に無期雇用の従業員と有期雇用の従業員とで格差をつける場合には、その格差をつける主旨や背景をしっかりと検討して論点整理すべきと考えます。その上で、就業規則にその主旨が明確になるように定めて、従業員にもその背景等を周知徹底すべきと考えます。
個別具体的な格差の定め方については是非ご相談下さい
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