働き方改革推進の法整備に関する法案要綱ー労働基準法の改正案① 時間外労働の上限規制
平成29年9月
今般の「働き方改革を推進するための関係法律の整備」に関する大まかな説明は先日させて頂きました。この中で、労働基準法の改正については改正全体の目玉ということもあり特に重要と考えます。
先日ご案内したように詳細の説明をさせて頂きますが、従来から懸案に成っている部分と新たに加わった時間外労働の上限規制があるので、従来からの改正に関する部分とこ時間外労働に係る改正とについて2回に分けて解説します。
今回はまず罰則付き上限規制について解説します。要綱に記載のポイントを要約して、わかりやすくします。
前回包括説明時同様、これは今回の法案要綱に対するコメントであり、衆議院の解散により当該法改正が延期されること等も含めて、最終的な改正内容を正確に反映するものではありませんのでご了承下さい。
<労基法の改正案 その① 時間外労働の上限規制>
1.協定すれば労働時間の延長と休日労働させることができる(従来同様)
2.上記1の協定で定めるべきことは以下の通り (従来と内容は同じ)
(一)労働時間延長と休日労働できる労働者の範囲
(二)対象期間
(三)どういう場合に労働時間の延長・休日労働させることができるのか
(四)1日・1箇月・1年それぞれに延長できる時間と休日労働させることができる日数
(五)労働時間延長・休日労働を適正にするために厚生労働省令で定める事項
ここでいう厚生労働省例で定める時効とは以下のもの
① 延長できる時間を超えた場合の健康確保措置
② 限度時間を超えて労働させた場合の割増賃金率・その手続き等
3.延長できる時間については「通常予見される時間外労働の範囲内」において定めないといけない
また、その延長できる時間は『限度時間』を超えてはならない
4.前項でいう『限度時間』とは1箇月45時間・1年360時間(従来同様)
・ただし、(1箇月変形の場合は1箇月42時間1年320時間)
5.労使協定では「通常予見されることができない業務量の大幅な増加に伴う臨時的な場合」には、
上記の3で合意した時間を超えることを定めることができる(従来の『特別条項』に該当)
ただし、労働延長+休日労働は1箇月で100時間未満、1年で720時間以内とする
これを定める時は1箇月45時間を超えることができる月数も定める
6.労働時間の延長・休日労働させる場合でも満たさなければならない要件((二)と(三)が重要)
(一)坑内労働その他の有害業務は延長させる時間は2時間を超えてはいけない
(二)1箇月について延長した労働時間+休日労働の時間は100時間未満でなければならない
(三)延長した労働時間+休日労働は上記のほか2箇月~6箇月の平均時間、全てにおいても
80時間以下でなければならない。
7.厚生労働大臣は前記2の(五)で定めた健康確保措置や割増賃金率・その手続き、に関して
指針を定めることができる
8.労使協定は7の指針に合致しなければならない
9.7の指針について行政官庁が必要な助言及び指導を行なうことができる
10.行政官庁が9で行なう助言・指導は労働者の健康が確保されるように特に配慮する
11~15は適用除外について 以下現行の制度との比較
・11.研究開発の業務については引続き適用除外とする
・12.工作物の建設事業については適用除外から改正法の施行から5年後に原則として適用
ただし、災害復旧と復興の事業の場合のみ6の(二)(三)の適用を除外する
・13.自動車運転業務についても適用除外から改正法の施行から5年後に原則として適用
ただし、4の『限度時間』については1箇月の上限はなし、1年の上限は960時間とする
また、6の(二)と(三)の適用はしない
・14.医師については改正法施行時は適用除外とする。施行後5年後には新たにルールを定める。
・15.鹿児島・沖縄での砂糖製造事業については改正法施行後3年間は適用除外
<重要な改正点の解説>
上記1および2にある点は基本的には現行の36協定と考え方は同じです。『限度時間』についても時間数は現在の限度時間と変わりはありません。従来の36協定では「1日を越え3箇月以内」と任意で決められたのに対し、改正後は「1箇月」と決められていることによる改正といえます。5.は現在の特別条項に変わるもので、考え方は現在の『特別条項』を踏襲しているといえます。
これに対し、重要な変更点は4つあります。
(1)新たな限度時間が設けられました
現在の『限度時間』は厚生労働大臣告示のため、この限度時間より長い時間を設定しても厳密には労基法違反とはなりません。今回の法改正案では1箇月と1年の限度時間を明確に定めております。時間数字体は45時間・360時間と現在の限度時間と同じですが、今回の改正により、新しい限度時間よりも長い延長時間を設定した場合は法違反になることがポイントです。
(2)6の(二)と(三)が新たなルールとなります
現在でいう所の特別条項に該当して『限度時間』を超えて労働させる場合、休日労働と時間外労働
合計が単月で100時間未満でなければならない。
単月で100時間未満であると同時に、前の月との平均で80時間以下、前2箇月を含めた
3ヶ月の平均でも80時間以下、同様に前5ヶ月を含めた6箇月の平均まで、どの平均をとっても80時間以下でなければなりません。
(3)「通常予見されることができない業務量の大幅な増加」について
具体的な言及はまだありませんが「通常予見されることができない業務量の大幅な増加」が現在の特別条項(限度基準第3条一項)に定める「限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る)」と同義なのかが今後問題となると思われます。今後注意が必要です。何らかのガイドラインが示されると考えますが、現在のの特別条項発動よりも厳格となる可能性があります。
(4)適用除外について見直されました
<注目点>
今回の改正の目玉はなんと言っても(1)と(2)といえます。今後は設定する「延長できる労働時間」も『限度時間』を超える場合は違法となり、罰則があることになります。また、一度80時間を超える時間外+休日労働を行なうと、他の月で行なえる時間外+休日労働にも制限がでるので、より厳格な労働時間の管理が必要となります。
改正案は実際の労働時間に法的拘束力のある上限を設けた点が画期的といえます。早期成立を心より期待します。
新たな改正は、社内ルールや就業規則の見直しを必要とするものです。どのように変更することが適切かご不明な場合はお気軽に相談下さい。
宍倉社会保険労務士事務所
電話 03-6427-1120
携帯電話 090-8595-5373
メール shishikura@ks-advisory.co.jp