宍倉社労士の労務相談室ー従業員に対するセクハラ問題への対応
平成30年5月
最近、官僚によるセクシャルハラスメントの問題が連日要ニュースとして報道されている。このニュースを見て感じるところとしては、ハラスメントという問題について当事者間でも認識のレベルに大きな差があるということである。
小職として、今回問題になっている件については言及する立場にはないため、この件自体に関するコメントはいたしません。しかし、これを期に改めてハラスメントの問題において、従業員を雇用する会社としてはどのような対応をしなければならないのかについて整理すべきと考え、コメントします。1. ハラスメントとは一体何か(その種類)
現在の労働関係の法律で事業主が従業員に対し何らかの対応をすることが義務付けられているハラスメント行為は以下の4種類あるといえる。
(1)セクシャルハラスメント(以下、「セクハラ」という)
(2)パワーハラスメント
(3)マタニティハラスメント(以下、「マタハラ」という)
(4)育児休業等ハラスメント(以下、「イクハラ」という)
4つのハラスメントのうち、パワーハラスメントは少し性格が異なるが、残り3つのハラスメントについては根拠とする法律こそ違えど、その考え方や事業主に義務付けられているものについては共通点が多い。また、行政も密接な関連性があることを前提にしております。このため今回はパワーハラスメントを除く3種類のハラスメントについて事業主の義務について触れたいと思う。2. セクハラのポイント
まず、今回クローズアップされているセクハラだが、行為そのものについては皆さんの良く知るところであると思う。その内容について確認されたい場合は、平成28年7月に厚生労働省が発表した指針に詳細が記載されている。ここに「セクハラが何か」、「どんな種類があるのか」についてきれいに整理されているので、その指針を参考にされたい。セクハラ自体を説明するスペースがないためここでの説明は省略させて頂く。指針をご覧になる方はこちら。
ただ、『セクハラについては充分知っている』という皆さんにも今回の事案に関連する重要ポイントを2点上げたい。(1)「職場とは」どこを指すのか⇒
指針にもある通り、職場とは『通常就業する場所以外の場所』も含まれる。この中には取引先の事務所や取引先と打ち合わせるための飲食店が該当することを明確にしている。つまり『取引先』で起こったことや『取引先の担当者と行った食事会』で起こったことも当然であるが、セクハラの範疇に入りうる。
(2)事業主に求められる対応は行為者に対するものだけではない⇒
セクハラについては行為者に対する処分等のみならず、いかに被害者(相談者)が被害の相談できる環境を作るか、どう事実関係を確認するかということが重要になる。非常にセンシティブな問題が事業主に義務付けられているといえる。今回のように、行為者が社外の人物、特に重要取引先の従業員等であった場合の対応も考える必要がある。
3. 新たに加わったハラスメント
マタハラとイクハラについては、出産・子育という一連のプロセスにおける段階が違うだけで本質的には一つのものである。法改正により、昨年1月1日より事業主の責任の範囲が拡大されている。従来は妊娠・出産、或いは育児休業等を理由とする『不利扱いの禁止』だけでしたが、新たに、妊娠・出産に関する言動、育児・介護等に関する言動も法規制の対象としています。つまり、従来は事業主が不利益な扱いをしたかどうかという点だけが問題であったのに対し、昨年からは、新たに上司や同僚からの心無い言動という、まさに『ハラスメント』の部分が対象となっております。ただ残念ながらこの点の周知度合いはまだまだ不十分といえます。
4. 会社はどのような対応が求められているのか
厚生労働大臣からの通達・指針によればセクハラに対して事業主が行うべきことは大きく4つに分類される。(マタハラ・イクハラも同じ対応が求められる)
(1)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
『セクハラというのはあってはならない』旨を明確にすること。セクハラがあった場合に行為者については厳正に処罰することを就業規則等で明記する
(2)相談〔苦情を含む〕に応じ、適切に対応する為に必要な体制の整備
相談窓口を定めて担当者が適切に対応できるように教育訓練等を行う。
(3)職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
事実確認を正確・迅速に行う。被害者に対する配慮措置を行う。行為者に対する適正な措置・再発防止措置
(4)併せてプライバシー保護・不利益扱いをしないことの周知。私の実感だが、(1)と(2)については形式的にはできている事業主が多いといえる。多くの会社の就業規則では服務規程や懲戒事由にハラスメントは明記されている。さらに、相談窓口についても設置することを就業規則に記載するなどしているところも多く見られる。こうした形式的な要件は満たしているものの、この相談窓口が本当に機能しているのか甚だ疑問である。また、(3)で求められる迅速適切な対応においても、実際に問題が発生した時にどの程度対応できるのか今一度検証する機会を作ることが望ましいと考える。
セクハラに加え、マタハラ・イクハラへの対応も必要になり、こうした相談がいつ来ても良いように備えるべきである。この様な相談や事実関係調査を外部に委託することも検討すべきと考える。5.今回のケースから学ぶ
冒頭ご説明申し上げたとおり、今回の事案の内容についてコメントする立場にはないので、これについての小職の意見は申し上げません。
ただ、被害者側の事業主の相談体制や迅速適切な対応については充分であったかは疑問が残る。皆様には是非この事例を参考に、これを自分の会社だったらどうするかを考えていただきたい。今回の最大のポイントは行為者とされる方が自社の従業員ではなかったことである。しかし、行為者が他社の従業員であっても『職場』で行なわれた性的言動で自社の従業員が被害を受けた場合、事業主は相談者の話と向き合うことがやはり求められる。
繰返しになるが、今回の事案が本当のところどういうものであったかは分からないので、コメントできない。ただ、一般論で言えば、『重要取引先』からセクハラまがいの行為は充分に起こりうる問題としてそういう対応をするのか、会社として想定し、そうした状況に備えておくべきと考える。電話 03-6427-1120
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