裁判例から学ぶー同一労働同一賃金(非正規は雇用期間の問題なのか)
平成31年01月
先週、同一労働同一賃金に関連して注目されるべき判決が下された。この司法判断は今後の同一労働同一賃金に大きな影響を与える可能性があり、ここでは詳しく取り上げたい。
同一労働同一賃金に関しては平成30年6月に最高裁で判決が出されたハマキョウレックス事件及び長澤運輸事件で一定の方向感が出されたろ理解されていたが、今回の大阪高裁の判断は昨年の最高裁判決にはなかった『新たな視点』が加えられたといえる。
日本郵便事件の概要
今回取り上げるのは、日本郵便事件の大阪高裁による判決である。
日本郵便では雇用している(た)契約社員が『正社員と同じ仕事をしているのに手当や休暇制度に格差があることが労働契約法20条に違反する』として、一昨年から東京・大阪そして佐賀で、内容を同じにした別々の(原告が異なる)訴訟が行なわれてきた。それぞれの裁判はいずれも控訴審に移り、昨年の5月に福岡高裁、12月に東京高裁で一定の判断が下され、今回大阪高裁でも判断が下された。
訴訟の内容だが、いずれの裁判でも、争われたのは、住宅手当や年末年始の勤務手当など、8項目の手当と夏季冬期休暇及び病気休暇の2つの休暇制度の合計10項目が訴訟の対象。それぞれの項目で正規雇用と非正規雇用の間で格差があることを違法として、原告側はその差額の支払いを求めていた。
今般の大阪高裁判断
争われている10項目のうち、大阪高裁は休暇制度は2つとも不合理と判断。この点は東京高裁との判断と一致している。一方、手当てについては、8項目の手当てのうち、年末年始勤務手当・祝日給・住居手当の3項目について、支給しないとするのは違法と判断した。一審では不合理としていなかった祝日給を不合理とする一方で、扶養手当については一審が不合理としていたのに対し高裁は不合理ではないと判断した。また、東京高裁では年末年始勤務手当と住居手当のみが不合理と判断され、祝日給及び扶養手当はいずれも不合理と判断しなかった。
それぞれの判断の相違点については、今後最高裁への上告が予想されるため、改めて分析をしたいと考えるが、今回ポイントとしたいのは不合理かどうかを判断する際に大阪高裁が示した『新たな基準』についてである。
大阪高裁が示した『新たな考え方』
今回の判決で議論を呼んでいるのが、大阪高裁が示した『新たな基準』である。
原告従業員8人のうち7人は雇用期間が5年を超えており、1人は5年を超えていなかった。大阪高裁はこの5年を超えている契約社員と超えていない契約社員とで判断を替えている。
具体的には、5年を超えている7人に対しては上記の通りの判断となったが、残る1名については年末年始手当や祝日給、2つの休暇制度に関して「違法とまではいえない」との判断を示した。
つまり、5年を超えて雇用される契約社員はには正規雇用と同じ扱いにしなければならないが、5年に満たない場合は「差があっても良い」との判断を示したことになる。
この5年という期間は当然労働契約法18条における無期転換ルールを意識してのことと推察される。
無期雇用に切り替えることが可能な雇用契約期間になれば、正社員と同じ扱いとするという判断だが、
これまでの日本郵便の福岡及び大阪での高裁判決では示されなかった判断で、昨年の最高裁でもこうした雇用期間で判断を異にする考え方は示されなかった。
今後何に注目すべきか
今回の大阪高裁の判断には筆者も大いに疑問がある。既に様々なコメントがなされているが、雇用期間が5年に満たない契約社員は何故異なる扱いとなるのか充分な説明がなされているとはいえない。例えば、入社半年の正規雇用には認められている処遇が4年雇用されている契約社員に認められないのはいかにも理解に苦しむ。
しかしながら、これが司法による正式な判断となれば、今後に与える影響は大きいといえる。
そうなると、雇用期間が5年を超えるか超えないかがより大きな意味を持つこととなり、このタイミングでの雇止めに拍車がかかることが懸念される。いずれにしても、最高裁の判断に大いに注目したい。
今回の判決で何を学ぶべきか
一方、別の注目点として筆者は今回の判断で2つのことを感じる。
処遇ごとの判断はまだ確立されていない
1つ目は、昨年の最高裁では「それぞれの処遇ごとに判断する」とする考えは示した。しかしながら、その処遇ごとの、つまり個々の待遇について、どのような場合に不合理となるかについては明確な基準はまだ確立されていないということが今回で明らかになったといえる。
今回の日本郵便事件では裁判所よって結論が異なった判断がなされたものも多く、さらに、昨年末発表されたガイドラインで示された考えとも違う部分もある。
今後、この日本郵便事件について、最高裁での判断がでた場合にどのようなものになるかは予測しにくいが、明確な基準確立まで相当の時間がかかると考えるべきである。
従って、備える会社側も、個々の処遇についてしっかりとした考え方を整理し、それに対応した社内ルール整備が求められる。
休暇制度にも注意が必要
一方で、一連の日本郵便事件の裁判で一貫しているのは、休暇制度の差についてはどの段階でも違法(大阪地裁は判断を行なわなかった)とされたことである。昨年の最高裁判決以降、『手当』に注目が集まっているが、実は休暇制度を始めとした賃金以外の福利厚生面などの処遇の整備も早急に行なわなければならない。この点についてはガイドラインでも触れられている。休暇制度のほか、勤務免除やその場合の有給・無給の扱い等についても早急に整備が求められる。
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