裁判例から学ぶー 契約社員にも退職金を支払うべきなのか
平成31年04月
同一労働同一賃金に関連する注目の司法判断が最近幾つか出されている。昨年6月の最高裁判決で一定の判断基準を示す格好となったハマキョウレックス事件・長澤運輸事件、これらに続き昨年12月~今年の1月に日本郵便事件についてそれぞれ別々の事案であったが、東京高裁・大阪高裁が注目の判決を下した。これらは既に投稿したものなので、興味のある方はこちらから書き込みをご覧頂きたい。
2月下旬からはさらに注目すべき2つの司法判断が下され、これらも今後に影響を与える可能性が高く、それぞれを取り上げたい。今回は2つのうち、メトロコマース事件を取り上げ、次回大阪医科大学事件を取り上げる。
メトロコマース事件の概要
メトロコマースは東京メトロの子会社で、東京メトロ構内の駅売店やコインロッカー、靴修理店などを運営している会社。このメトロコマース事件は、契約社員として雇用され、駅の売店の販売員として働いていた社員4名が、賃金・手当・退職金で正社員との不合理な格差があるとしてメトロコマース社に対して合計で5000万円近い損害賠償金の支払いを求める訴えを起していた。
地裁判決の概要
一審の東京地裁は平成29年3月に判決を下したが、基本的には原告の主張をほぼ認めなかった内容。地裁の判断としては、契約社員として雇用されていた4名については駅の販売員から変わることがないのに対し、正社員として採用された社員については一時的に駅の売店での販売業務を行い、結果的に契約社員と同じ業務を行っていたとしても、正社員には転勤もあり、出向を命じられることもあるとし、契約社員とは職務内容の変更の範囲が異なるとの考えの下、基本的には不合理と断定できるほどの格差があるとはいえないという結論だった。
地裁が不合理として認めてた格差は早出残業手当の割増率の違いであったが、それによる差額はわずか4100円であった。
高裁判決の概要
これに対して、高裁の判断は異なるものであった。
そもそもであるが、訴えを起した4人のうち既に退職している3人について、1人は労働契約法20条が施行される前に既に退職していたので、この法律の適用対象外として一審と同じように訴えを退けた。これに対し、残りの2名と現在も契約社員として働く1名に対して一定の支払いを命じる判断を行った。
具体的に、退職金については2名の元社員に対して一定額の支払いを命じた。これはこの2人が10年前後という長い年月勤務していたことから、退職金の功労報償の部分すら支給しないのは不合理と判断した。
また、住宅手当について、職務内容によってその必要性に差が生じないとした上で、3名の契約社員・元契約社員に対して支払いを命じた。
この結果、2名への退職金と3名への住宅手当の支払い、あわせて220万円の支払いを命じた。
高裁判決のポイント
高裁は、契約社員と正社員の間には、職務内容及び配置の変更の範囲に違いがあることを認めた上で、『でも正社員じゃないから退職金はゼロ』というのは不合理ではないかという考え方を示した。つまり、退職金は様々な要素で構成されているという考えの下、永年の功労に対する報償部分は、仮に契約社員といえどもあるのではないかという考えであった。
住宅手当については昨年6月の最高裁判断に沿って、住宅手当を支給する目的や必要性に鑑みて、契約社員に支給しないということを不合理とした。つまり今回のケースではメトロコマース社が住宅手当を支給する趣旨を踏まえて、正社員と契約社員の間に、一方には支給してもう一方には支給しないというだけの違いはないという判断であったといえる。
今後何に注目すべきか
本件は原告側が上告する方針と伝えられている。原告側は、支払いが命じられた退職金の金額が、正社員だった場合の4分の1程度しかないことを不服としているという。
退職金について使用者が考えるべき対応
退職金の問題については、本件が最高裁に上告されると、正式な司法判断が確認できるのはしばらく先になる。ただ、現時点での司法判断は、契約社員にも退職金を支払えとしていることを認識しなければならない。このことは今回の高裁が初めて示した判断であり、後の司法判断に大きな影響を与える可能性が高い。正社員にのみ退職金を支給するとしている企業は珍しくはないが、そうした会社は今後の対応を検討する必要がでてくるといえる。
退職金には勤続年数に応じた永年勤続の功労的な要素があるという今回の高裁の判断がこのまま成立すれば、一定の年数以上勤務する契約社員にはある程度退職金を支給すべきということになる。
退職金のどの程度の割合がこの永年勤続への功労報償と考えるべきか、どの程度の勤続年数があれば退職金を支払う支払うべきなのか、については今後の最高裁での判断で示される可能性もあるが、現時点では少なくとも正社員の退職金対比4分の1程度がそうであると覚悟しなければならない。
住宅手当について
住宅手当については、ここ1年の司法判断及び、改正されたパートタイム・有期雇用労働法に沿ったものであったといえる。手当てについては、それぞれの手当を支給する趣旨や目的に沿って不合理かどうかを判断する。今回のメトロコマースでは正社員にのみ支給するが契約社員には支給しないという(職務内容や変更の範囲の違い)による合理的な説明ができないことにより、契約社員にも住宅手当の支給が求められる結果となった。
逆に言えば、使用者は住宅手当は何故支給するのか?何に対して支給するのか?何故正社員にのみ支給するのか?これらをちゃんと説明できる支給ルールを定めなければ、正社員に支給している手当は契約社員にも支給しなければならないということになる。
使用者には手当の支給について、改めてしっかりと見直すことが求められるといえる。
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