派遣労働者の同一労働同一賃金 ー派遣先均等・均衡方式を押さえる
令和元年7月
今月厚生労働大臣より派遣労働者に係る重要な通達が発表された。
同一労働同一賃金は派遣労働者もその対象になり、派遣労働者の待遇をどうするかが派遣元・派遣先の大きな関心事項であることは言うまでもない。新しいルールでは、その待遇については原理原則となる『派遣先均等・均衡方式』と例外的な取扱となる『労使協定方式』が認められることになる。今回の厚生労働大臣の通達は『労使協定方式』の内容に掛かるもので、今後は関係当事者がどちらの方式を取るか、動きが本格化するといえる。
今回はその原理原則のルールである『派遣先均等・均衡方式』について整理し、次回『労使協定方式」について取り上げる。
認められている2つの方式
2つの方式があるとはいえ、あくまでも原則は『派遣先均等・均衡方式』である点は押さえておきたい。
『派遣先均等・均衡方式』はどんなルールなのか
『派遣先均等・均衡方式』とは、派遣される労働者の待遇を派遣先の従業員と同様の待遇にするという方式で、このため原理原則の方式とされている。具体的には、派遣される労働者に関して、派遣先で働く正規雇用の従業員との間での均等待遇・均衡待遇が確保できていなければならないとするもの。
つまり、派遣先事業主の社員であった場合受けられるべき待遇と同じ待遇を与えなければならないとする考え方。パートタイム有期雇用労働法の8条または9条の適用と同じ考えで、派遣先の正規雇用従業員と職務内容・職務内容の変更の範囲が全く同じであれば均等待遇をしなければならず、全く同じでない場合であっても、その違いに応じた待遇をしなければならないという考え方である。
この均等・均衡待遇を実効性のあるものにするためには、当然、派遣元事業主が派遣先従業員の待遇そのものを把握しなければ話が始まらない。このため、改正労働者派遣法では派遣先事業主に対して、派遣される労働者が従事する予定の業務に現に就いている派遣先の従業員に関する必要情報を派遣元事業主に対して提供することを義務付けている。
比較対象労働者が誰なのか
正確な比較をするためには、派遣先で働く誰と比較して均等・均衡待遇を確保しなければならないのかが最初の焦点になる。この比較をする派遣先の労働者を比較対象労働者と呼ぶ。
比較対象労働者は、派遣先が選んでよいことになっているが、選ぶ基準は厚生労働省より示されている。具体的には派遣先事業主に次の①~⑤の順であてはまる従業員がいれば、その従業員が比較対象となる。そして、そうした従業員がいない場合に⑥を適用することができる。
① 職務の内容が同一で、職務内容及び配置の変更の範囲(以降『変更の範囲』という)までも同一
である正規雇用の従業員
② 職務の内容は同一だが変更の範囲は同一でない正規雇用の従業員
③ 職務内容のうち、業務の内容または責任の程度のどちらか一方が同一の正規雇用の従業員
④ 職務内容はどちらも同一ではないが、変更の範囲だけが同一の正規雇用の従業員
⑤ 上記①~④の従業員がいない場合は短時間労働者・有期雇用労働者で①~④に該当する従業員
⑥ 派遣労働者と同じ仕事をさせるために新たに正社員を雇用する仮定した場合の従業員
どんな情報を提供しなければならないか
比較対象労働者が確定した段階で、派遣先事業主は、その比較対象労働者の待遇について情報提供しなければならない。提供する情報は以下の通り。
① 比較対象労働者の職務の内容・変更の範囲
② 比較対象労働者を選定した理由
③ 比較対象労働者の待遇の内容(昇級や賞与の支給など、主な待遇がない場合は、そのない旨)
④ 上記の待遇、それぞれの性質とその目的
⑤ 比較対象者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項
情報提供のポイント
派遣先が情報提供しなければならない内容は相応に広い範囲のないようであると共に賃金水準などの重要情報も含まれるため、派遣元に情報提供することをためらう派遣先が多く存在することが容易に想像できる。
派遣先が留意すべき点
比較対象労働者の選定
前述の通り、比較対象労働者を誰にするかは使用者が決めることができるという説明をした。ただ、ここで注意して頂きたいのは、これはあくまでも情報提供するにあたっての話である。
つまり、本当に比較対象労働者として相応しい従業員の情報を提供しているかどうかは、その情報を『提供する側』しか分からないので、本来は適当でない従業員の情報を『比較対象労働者』として提供した場合、そのことが後に問題となることがある。
実際に、後に同一労働同一賃金上の問題が発生し、仮に裁判で争うことになった場合、比較対象の労働者として相応しいかどうかは、裁判所の判断にゆだねることとなる点留意しておくべきであろう。
適当な比較対象労働者がいない場合
比較対象労働者は前述の①~⑥の順に選定することとしている。このとき、職務内容や変更の範囲が同じ労働者が正規雇用に存在せず、またパートや有期雇用などの非正規社員にもいない場合には、⑥にある、『新たに正社員を雇用すると仮定した場合』が使えることとなる。ただ、この⑥を悪用することは残念ながらできない。
実在する従業員の中に適当な従業員がいないので、この⑥をあてはめて、仮想の従業員を作ること自体問題ではないが、この仮想の従業員を実在する正社員と比べ極端に条件の悪いものとしてはならないことは同一労働同一賃金ガイドラインにも明記されている。
ここで確立する『仮想の正規雇用従業員』は現存する正規雇用の従業員と均衡の取れた労働条件でなければならないことは意識しなければならない。
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