有給休暇について考える② よくある間違い
平成28年5月
東京労働局で相談員としての職務を開始してから1ヶ月が経過した。テーマ別に見たときに、以外にも相談の多いテーマが有給休暇についてであった。
そこで、この有給休暇の制度について、以下の内容に絞って3回に分けて解説することとした、今回は第2弾として、「有給休暇の権利・義務についてよくある間違い」を取り上げます。
実際に頂いた相談内容を含め、よくみられる間違いや勘違いを例示して解説致します。労働基準法の条文(39条)を踏まえているので、確認が必要な場合は前回の内容をご覧いただきたいと思います。
2.制度の権利義務関係で良くある間違い
① 従業員の種類(雇用形態等)によって有給休暇を付与する社員とそうでない社員を差別できるのか
有給休暇の付与基準に関しては前回解説の通り、ポイントが2つある。
(1)雇用されて6ヶ月経過しているか。(2)出勤率が80%以上あるのか。の2つである。この2つをクリアしていれば有給休暇の権利が発生する。
この2つの要件をクリアしていれば、正社員であろうが、パート・アルバイトの社員だろうが、雇用契約の期間が短かろうが、有給休暇の権利が発生する。
極端な話、契約期間が最初から8カ月で契約更新しないことがあらかじめ決まっている社員でも、6ヶ月過ぎた段階で、通常の社員と同様に有給休暇の
権利は発生する。
→「アルバイト社員には有給休暇がありません」という制度は法律違反となります。ましてや、そのような定めを就業規則にすることは許されません。
② 有給休暇を取得する際、会社の承認を得る制度にできるか
前回解説の通り、有給休暇は労働者の権利であり、本人が申し出れば使用者は原則拒むことはできない。
→会社による事前の『許可』や『承認』を取得することを要件とすることは違法になります。
『時季変更権』についても留意すべきは、「事業の正常の運営ができなくなる場合」に限られているので、『その日は忙しいから』という程度の理由での時季変更権の行使はできないということです。
ただ、突然休まれると業務運営上問題が発生するので、例えば、「○○日前までに申請すること」という社内ルールを定めることは、その「○○日前」という期間が常識の範囲内のものであれば問題がないと考えられている。
<応用編>
シフト勤務の従業員がシフト日に休み、「有給休暇の取得」を主張した場合、有給扱いにしなければならないか欠勤扱いにできないのか?
パートやアルバイトの従業員等で『シフト制』で出勤日を決める場合は多いと思います。特に学生のアルバイトなどの場合は、学校の授業・試験等との兼ね合いでシフトが不規則となり、組むのに苦労する使用者は多いと思います。そんな中、せっかく組んだシフトを直前になって『行けません』というと大いに迷惑です。ましてや、そうした従業員から『この日は有給にしてほしい』と言われたら腹立たしいと感じる場合もあると思います。
→残念ながら、申し出があった場合は有給とせざるをえません。ただし、前述の通り、当日の連絡や無断での欠勤等は就業規則等で定めることによって有給休暇を認めない
ことはできるかもしれませんが、特にそうした定めがない状況で、『明日のシフト出られません。有給休暇扱いにしてください』と言われたら、有給休暇としての扱いと
せざるをえません。
③ 時間単位の有給休暇と裁量労働・フレックスタイム制との兼ね合い
有給休暇は、業務からの解放を目的としているので、「その暦日」を休日とするというのが基本的な考え方です。ただ、有給休暇の消化促進のために、1年に5日を上限として『時間単位』で取得できるようにする制度があります。この手続きに関しては別途確認頂きたいのですが、時間単位での有給休暇(半日有給等を含む)を導入している事業場で、裁量労働制やフレックスタイム制度の対象となっている従業員がいる場合の扱いには注意が必要です。
具体的にはフレックスタイム制のコアタイムでない限り、フレックスタイム制も裁量労働制もその従業員本人に労働時間の管理が委ねられております。従って、裁量労働制の 従業員が仮に、みなしの労働時間に対し極端に短い勤務実態があったとして、その残りの時間(みなし労働時間に足りない時間)分を時間単位の有給休暇とすることには 問題があると考えられます。
④ 付与日に付与すべき日数 比例付与ギリギリの社員の扱い
有給休暇の権利が発生した時点以後、勤務の条件が変わった結果、通常の労働者⇔比例付与の労働者と変更があった場合にどのような扱いになるか?
→あくまでも権利が発生した時点で付与日数等が確定します。「通常の労働者」であれば6ヶ月継続勤務が経過した時点で10日付与される。この従業員が仮に付与された直後に勤務日数が少なくなったとしても、比例付与の日数とはなりません。また逆もしかりで、比例付与で有給休暇の日数が決定したのちにフルタイム勤務となた場合でも、有給休暇の日数は増えません。
⑤ 付与日に一括付与
有給休暇は権利が発生した日に(初回は6ヶ月継続勤務経過時点、以降1年ごとに権利が発生する)に発生した有給休暇日数分すべてを付与しなければなりません。一見当たり前に感じるかもしれませんが、例えば、有期雇用契約の期間が満了する場合や既に退職することが決まっている場合等、
「あと1ヶ月しか働かないから」という理由で1ヶ月分の有給休暇のみを分割して付与することは許されていません。
<注意が必要なケース>
特に注意が必要なのは、付与日がばらばらにならないようにするために、会社で統一した「基準日」を設ける場合です。
<例>8月1日入社の従業員。この従業員は6ヶ月後の翌年2月1日に10日の有給休暇が付与されます。仮にこの会社が全社員の有給休暇の付与日を毎年4月1日に統一していたとすると、この従業員は10日付与された2ヶ月後の4月1日にさらに11の有給休暇が与えられることとなります。
ここで先に付与された有給休暇は2ヶ月分だから10日を分割して付与したくなりますが、そうすることは違法になるということです。
⑥ 有給休暇の時効について
有給休暇の時効は2年です。多くの会社では就業規則上、未消化の有給休暇を「次年度への繰り越し」として表現しています。表現はともかく、法律上「2年間有効」ということになりますので注意が必要です。繰り越せる日数に上限を設けたり、試用できるタイミングに時限性を持たせると違法になる場合がありますので注意が必要です。
問題となりやすいのは、前述⑤の例示のような途中入社の場合の扱いです。どのタイミングで入社したかにかかわらず、雇用されて6ヶ月経過したら10日付与されますが、
ここで付与された10日間は「そこ」から2年間、「いつ」使ってもよいことになります。使用者側でこれを制限することは許されていません。
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