「労務裁判ニュース」 定年後の同一賃金
2016年5月
先週東京地裁で注目に値する裁判が行われ、一部報道でも取り上げられた。昨今、『同一労働・同一賃金』の議論が活発化する中、定年退職後の従業員に対する処遇を真剣に検討することが求められる。
<裁判内容>
横浜市の運送会社に勤めるトラック運転手が、定年を迎えたことにより嘱託社員として再雇用された。再雇用後の賃金が定年前の賃金と対比して2~3割下がったとして、3名のトラック運転手が訴えを起こした。訴えとしては、『定年前と仕事の内容が全く変わらないのに、賃金が引き下げられるのは不合理だ』というもので、東京地裁は請求通り、賃金の差額合計400万円の支払いを会社側に命じた。
<注目点>
今回は正規社員と非正規社員の間での不合理な待遇の違いが禁止されている労働契約法20条に違反するものとしての判断であったが、定年後の雇用契約において、こうした判断がなされたのは初めてで、今後に影響を与えるものと予想される。
高年齢者雇用安定法の施行以来、65歳より低い年齢で定年を設けている会社には65歳までの雇用確保が義務付けられている。今でも定年の年齢を60歳としている会社は多くみられ、そうした会社の多くでは、定年後も65歳まで雇用を確保しなければならず、「雇用を確保するのだから賃金の引き下げがあっても問題ないであろう」という考えは一般的ともいえる。
こうした会社の人事・賃金制度に一石を投じる判決となっている。
<企業に求められる対応>
一方で、裁判長は「コストの増大を避けつつ、高齢者の雇用を確保するために、再雇用後の賃金を下げること自体は合理的」としていて、定年後に賃金が下がることよりも『仕事内容が同じなのに』賃金が下がることを問題視しているといえる。 従って、定年を迎えた従業員を定年後に嘱託として雇用する場合、どのような立場でどのような仕事をさせるのかを整理しないまま、再雇用すると同様の問題が発生するリスクが高いといえる。逆説的な言い方だが、定年後に雇用継続の措置として賃金を引き下げるならば、与える役割や職務もその分軽減すれば、下げること自体は問題がないということになる。
こうした問題を回避するためにも再雇用時の契約締結をどうするか、慎重に検討することが求められる。
具体的な雇用継続の契約手続等についてはお気軽にご相談ください。
<本投稿は2016年の地裁判決時のものであり、その後高裁・最高裁の判決が出されている。それぞれの判決卯時の書き込みを参照されたい場合は以下ご覧ください>
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