労働問題を考える 『労働時間』ー① 法定労働時間とは
平成28年7月
早いもので、東京労働局での非常勤職員としての業務が3ヶ月経過した。最初のテーマとして『有給休暇について』3回に亘り、整理してきました。今回は有給休暇に次いで相談件数が多い『労働時間』について整理することとしました。労働時間は何といっても、労働問題のコアの部分にかかわるポイントです。基本的な事項を中心としたポイント整理をしたいと思います。
今回もテーマに分けて発信していきたいと思いますが、解説を必要とする内容が多く、恐らく6~7回に分けての発信になると思いますので改めてお付き合い頂ければと思います。
まず、第一回として、基本中の基本である『法定労働時間』とは何かについて整理したいと思います。
第一回 法定労働時間について
1.法定労働時間と所定労働時間
最初に労働時間を語るにあたって、最も重要な条文を確認しましょう。労働基準法32条です。
1項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2項 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
誰が読んでも分かりやすく、間違いようのない条文です。この、「1日について8時間」、「1週間について40時間」、を『法定労働時間』と呼びます。この『法定労働時間』はとても重要な概念です。
この『法定労働時間』とは別に、使用者と労働者との間で、労働契約書や就業規則等で定める、契約上『働くことになっている』労働時間が『所定労働時間』です。この2つを区別することがとても重要です。
『所定労働時間』が『法定労働時間』より短い時間となっている場合は問題ありませんが、労働契約上の当事者が合意していたとしても『法定労働時間』より長い時間とすることは許されませんので、注意が必要です。そして、労働基準法32条に、「『法定労働時間』を超えて働かせてはいけない。」と定められていますので、超えて働かせた場合、違法となることも忘れてはなりません。もちろん罰則もあります。
2.特例規定
更なる詳細に踏み込む前に、「週40時間」の法定労働時間に関しては、特例で「週44時間」まで認められている場合があります。その点について簡単に触れます。労働基準法 施行規則25条2項で以下の定めがあります。
使用者は法別表第1 第8号、第10号(映画の製作の事業を除く)、第13号及び第14号に掲げる事業のうち常時10人未満の労働者を使用するものについては、法第32条の規定に関わらず、1週間について44時間、1日について8時間まで労働させることができる。
というものです。なお、第8号は商業、第10号は映画・演劇業、第13号は保健衛生業、第14号は接客娯楽業となっています。これらの事業を行う使用者で10人未満の労働者しかいない小規模事業は40時間ではなく44時間まで働かせることができるというものです。
3.法定労働時間を超える労働について
本題に戻り、一般の企業においては、現在注目が集まっている『過重労働問題』等で80時間労働や100時間労働とかが話題になっているが、そもそも『法定労働時間』を超えて働かせることができないのなら、これはどういうことだろう?と、素朴な疑問が出てくると思います。ここでは、この法定労働時間を超えて労働することがどのような場合に可能なのか(もちろん違法にならずに労働させる話しですが…)、そして具体的にどのような手続きや対応が必要なのかについて整理して参ります。
『法定労働時間』を超えて労働することができるのはどういう場合があるのか。(3つのケース)
(1)業務の都合で法定労働時間を超えて労働する場合、いわゆる一般に言う『残業』をする場合。
(2)日によって業務の繁閑の差があり、法定労働時間を超える仕事をする必要のある日があることがあらかじめ分かっている場合。
(3)労働時間の管理に関して、一定程度労働者に任せている関係上、正確な時間の把握ができない、または、していない場合。
それぞれの手続き等に関して簡単に解説します。
(1)の場合、労使協定の締結による対応ということになります。
法定労働時間を超えて労働させることは基本的には違法です。ただ、使用者と労働者の間であらかじめ一定の協定(36協定)が締結されていれば、その範囲で法定労働時間を超える労働をさせることができるというものです。これについての詳細は第2回及び第3回のテーマとして取り上げます。
(2)の場合、『変形労働時間制』による対応ということになります。
ここでの考え方は、あくまでも「『平均して』法定労働時間を守りますが、日によっては法定労働時間を超えることもあります。超える日の分は、他の日の労働時間を少なくする等して、『平均して』1日8時間、週40時間を守るようにします。」という考えに基づく制度があります。この制度に関しては第4回以降詳細に説明します。現時点ではそのような『制度』があることをご理解ください。
(3)の場合、『みなし労働時間制」による対応ということになります。
ここでの考え方は、労働時間を正確に把握することが困難、もしくは、ある程度、労働者に労働時間の配分をゆだねる方が良いケースで、労働時間が一定のものであったと『みなす』制度です。このみなし労働時間の制では、現実には『法定労働時間』を超える労働時間となることもありうるということになります。こちらに関しては変形労働時間制について解説した後に説明したいと思います。
<まとめ>
こうした制度や方法を活用して状況に応じて法定労働時間を超える労働を含めて、実態に即した、柔軟な労働時間を活用することができます。各制度・手続きの詳細は次回以降説明させて頂きます。
今回は、法定労働時間を超えた労働はそもそも違法であるということの理解と、超えて労働させる場合には、一定の方法や制度があるということをご認識頂ければと思っております。
宜しくお願いします。
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