「労務裁判ニュース」 定年後の同一賃金(高裁逆転判決)
2016年11月
本年5月に注目される裁判としてここでも取り上げた、定年後の従業員に対する賃金の引き下げに関する控訴審裁判の判決が本日、11月2日に出された。 結果は、東京高裁が一審の判決を取り消し、原告トラック運転手の逆転敗訴を言い渡した。
<訴訟の詳細及び一審の判決>
そもそもの訴訟はこういうものだった。
運送会社のトラック運転手が定年を迎えたことで、嘱託社員として再雇用されたが、再雇用後の賃金が定年前の賃金から2~3割下がったことが労働契約法20条に違反するとして、賃金の差額を請求したものだった。一審の東京地裁では、『定年前と仕事の内容が全く変わらないのに、賃金が引き下げられるのは不合理だ』とする原告側の主張を全面的に認めたものであった。 詳細については、一審の判決時の投稿をこちらから確認頂きたい。
<裁判の影響>
当該判決は大いに物議をかもす結果となった。端的に言えば、使用者側から考えた場合に、『国』からある意味勝手に、「従業員が定年を迎えても、65歳まで雇用することを強制される」という制度を押し付けられた一方、賃金の引き下げも出来ないという極めて理不尽な状況に置かれることを意味するものであったからである。この判決を受けた後に、将来的な対応策を協議する場や各種セミナーが各地で開催されるほどのものであった。
<今回の判決の理由>
今回の判決の理由として高裁の杉原裁判長は、「定年後の仕事の内容が変わらない場合でも、企業が賃下げを行なうことは社会的に容認されていて公知の事実」とした上で、「定年前の2割程度の減少は同じ程度の規模の会社の減額率を下回っており、下げ幅としても合理性がある」とした。労働契約方20条が定める有期契約の社員と正社員の不合理な格差には当たらないという結論に至った。
<考察>
原告側は上告の方針と伝えられており、その場合、どのような結論となるか一層の注目を集めることとなる。ただ、個人的には当然の結論だったのではないかという印象を持つ。確かに、定年後も同じ業務をしている場合、職務内容や能力の差が定年の直前と直後では極端に変わることはないともいえるが、定年後の雇用継続における契約で、労働契約法20条を根拠に論じることに違和感を覚える。今回の高裁の結論にある通り、定年後の雇用継続で賃金の引き下げを行なうことは当然のことと感じる。この段階での引き下げが容認されなければ、65歳まで実質的には定年時の給与水準を維持せざるを得ないことを意味し、使用者側への負担はあまりに大きいと感じる。
なお、本投稿は2016年11月の高裁判決時のものである。2018年6月に最高裁で最終的な判決が下されている。このときの書き込みをご覧になりたい方はこちらをクリックください。
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