「労務裁判ニュース」 過労死認定ー公務員の過重労働裁判
平成28年11月
電通の新入社員がうつ病に罹患し、自殺した事件が引続き話題となっている。一方、その間にも同様の事件が発生し、遺族が使用者側を訴える事件が続いている。この電通の事件を契機に今後こうした訴訟がさらにクローズアップされることは間違いないと言える。筆者も、しばらくはこうした事件に注目することとしたい。今回は、11月10日に福岡高裁で判決が出された公務員の自殺に係る事案について取り上げたい。 以前も説明したが、過労死認定には一定の基準がある。その認定基準に関しては近日中に解説の場を設けたい。
<事案概要>
福岡県で市役所職員をしていた男性が、2010年6月に自殺し、2013年に一般企業の労災に当たる公務災害が認定されていた。この男性は自治体の合弁に伴う工事の負担金に関する条例案の業務を担当していたとのことで、住民に対する説明という精神的に負担のかかる役割を担っていた。遺族は使用者に対して損害賠償として7700万円請求していた。
一審では、「自殺直前の一ヶ月は時間外労働が100時間を超えていたが、それ以前は超えておらず、業務が過度の負担を強いるものではなかった」として遺族側の請求を棄却していた。高裁は一審の判決を覆し、「業務のストレスが過度に蓄積していた。心身の健康を損なっていることを示す明らかな兆候があった」として市側の安全配慮義務を認め1600万円の支払いを命じた。
<裁判での論点と考察>
今回の論点となったのが『業務の過重性』があったかなかったかという点と、それに伴う安全配慮義務違反が市側にあったかどうかという点になる。遺族は市が業務の量を適正に管理していなかったため、過重な業務をさせていたとしていた。一方で、市は労働者には変わった様子が無く、自殺を予想することが出来なかったという主張である。
今回は、一審と二審(高裁)の判決が異なっている。決して珍しいことではないが、わが国での、こうしたケースでの裁判事例が少なく明確な基準の確立に至っていないということが言える。
注目に値するのは、高裁で判決が覆された一方で、損害賠償として支払いを命じた金額が遺族の請求額から8割ほど減額されているということである。減額の背景として、男性職員が管理職であり、自分の仕事量をある程度調整できる立場であったことや、メンタルヘルスの相談を市側にしていなかった等、労働者側にも責任があることに言及している。この減額の是非に関しては法律の専門家の間で議論が分かれているところであるが、筆者は法律の専門家ではないのでこの点のコメントは避けるが、結論としては、そうした場合でも使用者の責任は逃れられないという点である。
より具体的に言うと、本人が自分の体調不良を申告しない等使用者側からすれば、労働者が精神疾患に罹患していることに気付くことが難しい場合であっても一定の安全配慮義務が求められるということである。
<使用者側が行なうべき対応>
現時点ではこうしたケースでの法理は定まっていないといえるが、今回のように労働者側にも責任があると判断される場合でも、使用者側には一歩踏み込んで労働者の健康状態を管理把握することが求められると考えた方がよいといえる。具体的な方法は検討するとして、まずはそうした認識を持つことが必要になってきている。
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