労災認定基準についてー① 「脳・心臓疾患」
平成28年12月
近日、過重労働による労災がクローズアップされている。労働基準監督署による労災認定・労災認定に対する不服申し立て裁判・労災認定を受けての損害賠償請求、様々な形で労災認定が問題となります。今回の電通事件も労働基準監督署における労災認定がきっかけで、世間の注目を集めることとなった。これまで、小職も多くの労災事案を取り上げてきましたが、今回は改めて過労死に係る労災の認定基準について確認したいと思います。
過労死の労災認定といっても、「脳・心臓疾患」による過労死と「精神疾患」による過労死とに大きく2つに分かれます。現在大きく取り上げられている電通社の社員がうつ病で自殺したケースは、精神疾患によるものということになるが、精神疾患による労災認定基準は少々複雑なので、まずは脳・心臓疾患による労災認定基準について解説したいと思います。
脳・心臓疾患の労災認定基準について
脳疾患や心臓疾患によって、「過労死」がどのように労災認定されるかという基準について、厚生労働省がパンフレットを作成しています。非常に良くまとまったパンフレットですので、時間があるときに一読頂ければと思います。厚生労働省パンフレットはこちらから
この投稿では、「脳・心臓疾患」による過労死とは?、認定基準の基礎的な考え方と3種類の認定要件について簡単に解説します。そして最後に、長時間労働と過労死認定について少し具体的に触れます。あくまでも概要説明なので、詳細はご紹介したパンフレットをご覧下さい。
1.脳・心臓疾患が何か
まずは「脳疾患」と「心臓疾患」が何かということを確認します。「脳疾患」は脳梗塞・クモ膜下出血・脳出血というもの、「心臓疾患」とは心筋梗塞・狭心症・心臓性突然死・解離性大動脈瘤といった、いずれも命に直結する疾患で、「突然死」にあたるものをここでは指します。
2.認定基準とその基礎
労災認定の基準は、『業務による明らかな過重負荷』があったかどうか。という基準で認定されます。この『過重負荷』については『元々本人が持っている病気の状態が通常に日常生活を行なっている度合いを超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷』と定義されています。もう少しわかりやすくいえば、「普通に過ごしていたら、そこまで悪化しなかった。業務によって明らかに悪化しましたよね」と、言えるだけ業務が大変だったかどうか、ということです。この『業務による明らかな過重負荷』があると認められれば、労災認定され、そうでなければ労災認定されないということになります。
3.具体的な要件 3つのパターン
『業務による明らかな過重負荷』にあたるかどうかについては具体的に3つのパターンが示されています。言いかえれば、どの程度を「大変な業務」といいますか?という話です。
認定要件1 異常な出来事 疾患発症直前から前日までの時間
具体的なポイント① 普通に仕事をしていたら遭遇することのない事故や災害に遭遇した。
具体的なポイント② 気温の急上昇・急低下の変化が急激で激しい作業環境で仕事をしていた場合。
認定基準2 短期間の過重業務 疾患発症の直前の1週間程度
具体的なポイント この期簡に継続して長時間労働をしている場合。
認定基準3 長期間の過重業務 疾患発症までの概ね6ヶ月の期間
具体的なポイント 著しい疲労の蓄積をもたらす長時間の時間外労働があった場合。
これら認定基準のどれかに該当した場合に労災認定される。認定基準2と3は実際の労働時間のほかに、「負荷要因」があるかどうかも判断材料となります。今回は認定基準3による労災認定事案が多いことから、この基準をもう少し掘り下げます。
4.長期間の過重業務
<時間外労働時間数>(ここでの時間外労働とは休日労働を含めたもの)
具体的な時間外労働時間としては、発症前1ヶ月で100時間超え、または、発症前2~6ヶ月における1ヶ月あたりの平均時間外労働が80時間を超える。このどちらかの場合、長時間労働と疾患発症の関連性が高いとされていて、労災認定される可能性が高いといえます。一方で、1ヶ月の時間外労働時間数が45時間以内の場合は疾患の発症との関連性が低いとされております。45時間を越えて80時間に近づけばそれだけ労災認定される可能性が高まるということです。
近年、行政側でも「80時間」や「100時間」を一つの基準にしている背景がここにあります。
<労働時間以外の負荷要因>
認定基準2及び3の場合、「勤務の形態」・「作業環境」・「精神的緊張」といった時間以外の要因も労災認定には加算要因として考慮されます。厚生労働省のパンフレットに詳細の記載があり、どのような状況で加算されるかについては個別・具体的にご確認頂きたい。ただ、あくまでも労働時間の長さが主要因であり、これらの負荷要因は認定に対する「加算」の要因程度である認識を頂きたい。
もう少し具体的な話をすると、仮に、疾患発症前の半年間の時間外労働が80時間に満たない場合でも、劣悪な作業環境で業務を行っていた場合や、出張が多い・拘束時間が長い、といった勤務形態による負荷が大きい場合には労災が認定される場合があるということです。
以上、「脳・心臓疾患」における過労死の労災認定について解説しました。次回は「精神疾患」の認定基準について解説したいと思います。
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